Ennio_Morricone_2013

 映画音楽の巨匠として世界的に知られるイタリアの作曲家、エンニオ・モリコーネ氏が5日、ローマの病院で息を引き取ったと現地メディアが報じました。91歳でした。彼の作曲した曲は音楽を離れ、たとえば「ニュー・シネマ・パラダイス」のテーマ曲は世界中で繰り返し演奏されています。

 イタリア映画界だけでなく、米ハリウッド映画界でも活躍し、映画音楽の魔術師と呼ばれ、多くの映画関係者から尊敬を集めていました。何といってもモリコーネ作品の真骨頂は、どんなドロドロした悪が横行する映画でも、心洗われるような心に染み渡る清さを漂わせていることです。

 あのニューヨークのユダヤ人ゲットーで育った2人のギャングの生涯を描いた映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」はセルジオ・レオーネ監督の遺作でですが、モリコーネのテーマ曲はいつまでも人の心に残る感動の名曲です。

 1928年ローマ生まれ。1950年代末〜60年代前半に映画音楽の作曲を始め、小学校の同級生だったレオーネ監督作品で米俳優クリント・イーストウッドが主演した「荒野の用心棒」(1964年)で音楽を担当し、映画と共に世界的大ヒットを記録し、マカロニ・ウエスタン全盛期の映画音楽作曲家として世界的地位を固めました。

 イタリア制西部劇は英語ではスパゲッティ・ウエスタンと呼ばれ、多くはユーゴスラビアやスペインで撮影され大ヒットしましたが、不思議な取り合わせでした。ハリウッド映画にイタリアが最大限影響を与えた時代であり、クリント・イーストウッドだけでなく、バート・レイノルズ、リー・ヴァン・クリーフ、ヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソンなどハリウッド俳優が多数起用されました。

 特にハリウッド映画に見られる勧善懲悪の単純な構図に見られる正義の味方を主人公とは正反対のニヒルで人殺しもいとわない暴力的な主人公と脇役のアウトローたちの絡みは、アメリカン・ヒーロー映画とは大きく違っていました。その聖俗混在で時に悪が勝ってしまう人生のリアリティが超イタリア的だともいえます。

 そこに登場するモリコーネ音楽は、映画を盛り上げる添え物的存在ではなく、音楽そのものがストーリーを語るという手法でした。人生の悲哀を繊細に語るモリコーネ作品とは大きく異なるのが、モリコーネと双璧をなす映画音楽の世界的巨匠、米国のジョン・ウイリアムズです。

 スーパーマンなどのヒーローもので見られるウイリアムズの作品は、正義は最後には必ず勝つという米国の価値観のファンファーレです。清涼感はあり、モリコーネのリアリズムに対して理想的願望の世界です。今は米国で黒人差別や奴隷制度への反省が議論されていますが、そのリアリティと理想のギャップこそアメリカを表しているといえそうです。

 モリコーネは59年のキャリアで500本以上の長編映画、テレビの音楽を担当、ストーリー性を持った哀愁漂う旋律と心に染み渡る旋律で映画作品の評価を高めることに多大な貢献をしました。イタリア映画だけでなく、米ハリウッド映画、フランス映画などに欠かせない作曲家でした。

 ローランド・ジョフィ監督「ミッション」(86)でゴールデングローブ賞作曲賞、ブライアン・デ・パルマ監督「アンタッチャブル」(87)でグラミー賞を受賞、ジュゼッペ・トルナトーレ監督「ニュー・シネマ・パラダイス」(89)で世界的な知名度を得、今も世界中のコンサートでモリコーネ作品は演奏されている。

 2007年には、第79回アカデミー賞において名誉賞を受賞。その後クエンティン・タランティーノ監督「ヘイトフル・エイト」(15)で第88回アカデミー賞作曲賞を受賞しています。モリコーネ氏が音楽を担当した映画の多くがヒット作になったのは、作品制作に音楽が深く関わったからともいえます。NHK大河ドラマ「武蔵」(03年)のオープニングの楽曲・指揮を担当したのも興味深いところです。

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