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 7月1日に欧州連合(EU)議長国となったドイツのメルケル首相はやる気満々です。理由はこれが引退を視野にした自身の最後を飾る大仕事だからです。コロナショックで痛めつけられたEUの経済再建を牽引できるのはコロナ禍対応の優等生で最強の経済力を持つ自分しかなく、ドイツが過去で最も存在感を示せるチャンスが到来しているという認識に立っていることは間違いありません。

 今やEU首脳としては長老格のメルケル氏にとって、東西冷戦後、EUの財布的存在でありながら、日本同様、第二次大戦時の暗い影を引きずり、控え目にEUの牽引役を務めてきたのが、コロナショックの逆境でドイツ完全復活のチャンスを与えられたともいえます。

 コロナ禍で通商交渉が大幅な遅延状態に陥っているEU離脱の英国が存在しない今、メルケル氏はEU復活の鍵を握る人物であることに間違いありません。不人気の緊縮政策を改めて、大型財政出動で今やワンダーメルケルと揶揄されています。

 とはいえ、コロナ禍からのEU復興基金をめぐって考え方に大きな隔たりのあるイタリアやスペインなど南欧諸国との対立は深刻で、メルケル氏が自身の花道を飾れるかどうかは不明です。

 特に対立する南欧とドイツ、オランダ、スウェーデンなど欧州北部の仲介役でもあるフランスのマクロン大統領は、メルケル氏との関係は良好ですが、28日に行われた統一地方選挙の決戦投票で、マクロン氏率いる中道与党、共和国前進(REM)が主要大都市で敗北し、元気がありません。

 マクロン氏にとっては、5月にREMの会派から国民議会議員7人も離党し、すでに議会で過半数割れに追い込まれていた最中の地方選挙の敗北で、足元はグラグラ状態です。実はメルケル氏も自国政界で圧倒的支持を得ているわけでもなく、極右政党や環境政党の主張に耳を傾けざるを得ない状況です。

 メルケル氏にとっては、EUの執行機関、欧州委員会のフォンデアライアン委員長がドイツ出身というところが心強いところですが、コロナ禍対応で初動が遅れ、特にEU域外からの渡航者をブロックする統一した措置を取るのに手間取ったことや、欧州復興基金のとりまとめで指導力が疑われているところに頼りなさがあります。

 実はコロナ禍は、外から見るよりEUには、はるかに深刻なダメージを与えています。理由は対面の首脳会議でできていないことです。世界で唯一異なった国が制度や通貨を共有するEUにとって、コミュニケーションは命綱です。それがテレビ会議では協議するのに限界があるということです。

 特に欧州諸国には、長い対立と闘争の歴史を精度の高い交渉で乗り越えてきた過去があります。男女の別なく握手し、抱擁し、頬にキスをする濃厚接触の習慣も、互いが敵でないこと確認するためのものでした。社会的距離は、ただでさえ脆弱で摩擦や対立が起きやすい加盟国間の関係を危うくしています。

 首相会議の休憩時間、個別交渉したり、口角泡を飛ばす議論をしてきたEUにとって、コロナ禍は統一行動を引き出すには非常に困難な状況といえます。不慣れなテレワークでは、到底議論は深められず、ただ互いに自己主張するだけの協議が繰り返される最悪の状況です。

 それに今は静かにしていますが、EU懐疑派は復興基金創設でドイツが厳しい条件を出していることに苛立つイタリアなどは、国内でポピュリズムやEU懐疑派が今にもエネルギーを爆発させる機会を伺っています。

 さらに昨年の欧州議会選挙で約10%に迫る議席を獲得した緑の党・欧州自由連合や、フランスの地方選挙で予想外の勝利を収めた緑の党の躍進は、メルケル氏には脅威です。なぜなら環境政党の本質は極左であり、環境問題を利用しながら超リベラル思想を伝播することにあるからです。

 メルケル首相はトランプ嫌いで知られ、今はドイツ駐留の米軍の規模縮小を進めるトランプ氏に対して苛立っています。彼女は欧州はトランプに屈しないという姿勢を全面に出していますが、この感情的ともいえるアンチ・トランプはEU議長国として、けっしてプラスになるとは思えません。

 さらに驚くほどの中国との融和政策を進めるメルケル氏の対中認識も心配の種です。自分はトランプと違い、多国化均衡論で中国ともうまく付き合えるという自負や過信は、危険な認識といわざるを得ません。花道を飾るには課題は山積です。

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