Hong_Kong

 コロナ禍後のニュー・ノーマルは、withコロナとwithチャイナといわれるほど、中国との付き合い方が問われています。ビジネスは政治とは無縁とたかをくくっていたビジネスマンたちも、香港に国家安全維持法が7月1日から施行されることで様相は大きく変わることが予想されます。

 某日系企業の香港に隣接する深圳に10年以上駐在する友人は、中国がいかに外国企業を食い物にしてきたかを肌身で感じてきた一人です。中国での生産を許可した高度な日本製品を最初は歓迎し、中国市場の5割を占めるまでに成長した後、合弁相手に技術は全て吸い上げられ、安価な中国製の同等の製品が市場を席巻し、工場を閉めるに至った経験をしたそうです。

 その間、何度も日本本社に警告したにも関わらず、好調に見えた中国での売り上げの数字を根拠に手を打たず、気がつけば完全に市場を失っていたというわけです。それでも一国二制度で高度な自治が保たれる香港の存在があることと、米国のトランプ政権が中国と正面から戦ってくれていることを希望に感じていたといいます。

 今回、習近平政権が導入した香港の国家安全維持法はある意味、必然だったといえます。数年間にわたり香港で起きていた度重なる抗議デモの矛先は中国共産党中央政府に向けられたものでした。抗議デモなどあり得ない社会主義体制の中国にとって、同じ国の中で習近平政権を批判する勢力が存在することは、たとえ「高度な自治」といってもあり得ない現象でした。

 中国共産党中央政府がよく口にするのは「国のために働く政府に人民は感謝しなければならない」という言葉です。その意味で香港の抗議デモは真逆な行動です。フランスの日刊紙ルモンドは6月30日付けで「中国政府、香港人の愛国心を問題視」と題する記事で「中国当局は香港の若者が体制に自由に異議を唱える言動を根絶するつもりだ」と書きました。

 中央政府の懸念は、その批判の声が中国本土に拡がり、体制維持が脅かされることです。当然、社会主義に賛同しない外国勢力の働きも阻止したいところです。

 英BBCは「香港特別行政府は抗議デモで表面化した治安問題で何度も治安維持のための法整備を試みたが、結論を出すことができなかった。このことが今回の結果に結びついた」と分析しています。つまり、香港政府が自治を十分に行えないという理由を中央政府に与えてしまったことになります。

 中国が英国と結んだ返還後50年間は一国二制度を維持するという約束は、最初から中国特有の契約への考えが存在しており、契約は都合により相手との合意なしに変えられるという理解が一般的です。法や契約は自分の都合で利用するものであって、予想以上の速さで経済成長した中国にとって、香港の利用価値は失われつつあり、50年が25年になることもありうるというわけです。

 契約や約束事を金科玉条のごとく扱う慣習は中国にはそもそもありません。尖閣諸島はいらないと過去にいいながら、事情が変われば「わが国の領土」というのが中国です。環境問題で圧力を加えられると「わが国は途上国(事実、約6億人が1か月1万五千円で暮らす)」といい、一帯一路では「大国であるわが国が主導する」と声を荒らげるのは、彼らには矛盾はありません。

 香港の旧宗主国である英国は、中国での香港国家安全維持法制定を受け、香港に住む300万人近い「英海外市民」について、移住・市民権付与に道を開くための制度改正に着手する方針を明らかにしました。また、ラーブ外相は「われわれは深く懸念している」「これは重大な一歩となるだろう」と述べました。

 今後の恐怖は、解散した香港民主派デモシストのメンバーを過去にさかのぼって訴追するかもしてないことです。抗議活動を今後自粛しても、反体制の考えを持つ危険人物の徹底排除のため次々に身柄を拘束し、本土で長い刑期に服させる可能性もあります。そうなれば一国二制度は完全崩壊することになります。

 そんな暴挙も考えられるのがコロナ後のwithチャイナです。超内向きの中国は体制維持のためなら何でもするでしょう。それでも外国人ビジネスマンたちは中国を愛し、中国で働き続けるしかありません。関係各国は今後、自国の中国で働くビジネスマンを守ることもさらに大きな任務になると思われます。

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