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 欧州連合(EU)の優等生ドイツは、この数年、経済減速が続いています。そこにコロナ禍が襲いEU域内では低い失業率を誇るドイツも雇用問題は重い課題になりつつあります。ドイツ経済省によると、国内雇用の約28%は間接的なものも含め輸出に関連し、自動車など製造業に絞り込めば、その割合は56%にも上るとされています。

 その最大の貿易相手国が中国です。ドイツが米中戦争で単純にアメリカにつけば、ドイツ経済が致命傷になりかねないのは事実で、ただでさえ経済が減速気味のあてにならないEUが、コロナ禍でさらに経済が悪化する中、ドイツには中国を棄てる選択肢はないようです。

 人口が米国の4分の1のドイツは輸出規模で米国と肩を並べるほど、輸出主導の国です。中国の覇権主義や人権問題が批判されても、それはそれ、経済はあくまで政治とは別物という考えで、米国に歩調を合わせるわけにはいかない台所事情があるわけです。

 ドイツは欧米諸国の中で米中両国との経済関係が最も深い国であり、そのために米中対立の先鋭化でドイツには戦慄が走っている状況です。トランプ米大統領を嫌うメルケル独首相が中国向けにリップサービスを繰り返すのには、それなりの事情があるわけです。

 しかし、一般的には東西冷戦下の東ドイツで生まれ育ったメルケル氏は社会主義国ソ連の恐ろしさを身を持って体験したはずなのに、なぜ、中国に肩入れするのかと苛立つ識者は米国でも日本でも後を絶ちません。しかし、米中と深い経済関係を構築している日本の対中外交の腰の引けた態度はドイツと変わりありません。

 2000年に入ってからのドイツの経済成長には対米、対中貿易が発展の原動力だったことは明白で、優れた工業製品の両国への輸出の恩恵で、EUのトップランナーとしての位置と完全雇用に近い状態を維持し、EU内で指導的立場を得てきたといえます。

 つまり、EUの優等生は冷戦期に培ったバランス感覚を最大限活用し、EUの浮き沈みを横目で見ながら、米中両国との経済関係を強化することで発言権を得てきたと言えます。それは2015年以降のシリアからの難民100万人の受入れに繫がり、新型コロナウイルス流行への経済対策に1兆ユーロ(約120兆円)をつぎ込める財政力をもたらしているともいえます。

 それを米国に肩入れし、中国との関係を悪化させてしまった場合、米国や日本、ブレグジットとコロナ禍でガタガタのEUとの関係だけで、同じ状態を維持することは困難といわざるを得ません。それにドイツは日本同様、敗戦国で経済大国にも関わらず、国連安保理の常任理事国でもなく、国際社会に強気の姿勢を取り辛い過去を抱えています。

 さらに実は引退を表明しているメルケル首相は、移民大量受入れで国内で極右政党、ドイツのための選択肢(AfD)が台頭し、環境政党などの発言権が高まる中、後継者指名にも失敗し、求心力も指導力も衰えている事情もあります。今はドイツ議会は一筋縄ではいかず、経済界の圧力も無視できません。

 しかし、ドイツが米中の間で態度を決めかねた態度をとることは、米国及び他の米国を支持する加盟国からすれば、対中外交を弱体化させる要因になっているのは確かです。特に米国は、どんなにトランプを嫌うメルケル氏だとしても、この闘いで一枚岩になれないことを不快に思っています。

 それに米国は日本同様、敗戦国ドイツの戦後再建に最も貢献してきた国です。米国の支援なしに今のドイツはないわけですが、日本ほどの報恩精神がないのがヨーロッパです。大陸の奥深くで様々な国に囲まれながら、狡猾に逞しく生き延びてきたドイツにあるのは今と今後だけです。

 中国の広域経済圏、一帯一路への警戒感を持ちつつも、あくまで経済は政治とは別物との考えを貫こうというのがドイツ。しかし、コロナ禍がもたらすニューー・ノーマルで、その考えが正しい結果をもたらすかは個人的には極めて疑問です。

 ドイツの主力である自動車産業にとって、中国はすでに最大の市場で、欧米としては最も早くから中国投資を開始した独フォルクス・ワーゲン(VW)の先月の中国販売台数は、前年同月比6%増の33万台と、同社の世界販売の半分以上を占めています。他の欧州諸国は、ドイツほど中国との経済的な結びつきが強くないことを考えると、メルケル首相の対中発言の歯切れの悪さも理解できます。

 さらにドイツが抱える難題の一つはハイテク産業、デジタル革命への移行の遅れです。重厚長大産業への依存度は今も高く、過去にドイツを公式訪問した韓国の朴槿恵前大統領に対してメルケル氏は「あなたの国はサムスンなどがあって羨ましい」と発言したほどです。

 欧州のトランプ政権へのネガティブ報道によって、ドイツを含むEU諸国は、アメリカへの感心が薄れているという世論調査結果も最近はあります。ドイツはイランの核開発阻止のため、安保理常任理事国に加わり、イランと交渉し、合意に漕ぎ着けたのにトランプ大統領によって壊されてしまいました。

 米国開催の主要7ヶ国(G7)首脳会議の出席を見合わせたメルケル氏の心中には、米国に協力したくない気持ちも見え隠れします。その一方で、ドイツ首相府は今月、9月に独ライプツィヒで開催する予定だったEUと中国との首脳会議の無期限延期を突如に発表しました。

 7年間も続いた協議で欧州企業の中国市場へのアクセスを大幅に改善する投資合意に習近平氏が消極的だという裏事情があるといわれています。中国進出で手続きの煩雑さ、不当な技術移転の強要、中国企業への政府の不公正な補助金などで苦しんできたドイツは、協議で事態の改善を目指していますが、手応えは薄いということです。

 ドイツ財界は中国市場からの撤退を自殺行為といっているのは経済論理としては当然ですが、コロナ後の世界で、ドイツはの中途半端な八方美人的態度が命取りになる可能性も否定できません。

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