Air France TGV

 フランス政府は、同国が進める地球温暖化対策の一環として、旅客機の国内空路短距離路線の完全廃止の方針を打ち出しました。日本でいえば、東京から名古屋や大阪間、大阪から福岡間などの航空路線を廃止し、新幹線のみの利用にするような方針です。今後、ANAやJALの路線整理の参考にもなりそうな話です。

 さらに撤退するエールフランスの路線に格安航空会社(LCC)が参入できないよう法令も整備するとしいます。今回に措置は具体的には超高速鉄道(TGV)で2時間半以内の航空路線を廃止対象とし、短距離移動を空路から列車に切り替えることで大気汚染を減らすことが期待されています。

 計算上、飛行機で1時間半の距離は鉄道だと2時間半ですが、空港までの移動時間を考えると同じ時間が掛かるという計算です。

 対象になるのは首都パリからレンヌ、ナント、ボルドー、リヨン、ストラスブールなどの路線で、対象航空会社はエールフランスを含む全ての航空会社としています。政府は空いた航空路線にLCC会社が入り込まないよう法令を定め、さらに欧州連合(EU)の法令にも適応させるとしています。

 環境問題に前向きな左派のエールフランス労働組合は、概ね歓迎していますが、パリ・リヨン間やパリ・ボルドー間など好調な路線の廃止による減収を懸念する声も聞こえ、減収は当然、人員削減に繋がると不安の声もあります。

 環境問題より企業活動優先と批判されてきたマクロン政権としては、温暖化対策で点を稼ぎやすい空の移動手段の国内路線削減で得点を稼ぎたいところですが、航空関係者は解決しなければならない問題は山積みといいます。

 たとえば外国から乗り入れる国際便がパリの空港で国内の短距離路線に乗り換えることができなくなります。実際、約50%の国際便がパリのドゴール空港やオルリー空港を乗り継ぎ便として利用しており、廃止になれば空港から列車に乗り換えて目的地に向かうことになり、利便性が失われます。

 日本から空路でパリで乗り継ぎリヨンに向かうことはできなくなり、一旦、荷物を受け取り、フランスに入国し、TGVに乗り換える必要があります。ドゴール空港内にTGVの駅はありますが、たとえばリール行きはありますが、本数は少なく、行き先によってはパリ市内まで出て、鉄道に乗り換える不便さも今後問題になってくることが予想されます。

 逆に環境保護団体は列車で4時間以内の空路の廃止を提案しています。そうなると空路の国内便は、大幅に消えることになります。廃止される路線の都市では早くも不満の声が上がっており、飛行機を使い慣れた人々は鉄道への乗り換えに難色を示しています。

 一方、EUの鉄道事業自由化に備える鉄道事業者は大歓迎です。すでに格安のウイゴーが格安超高速鉄道事業に参入しており、利用客数を伸ばしています。空路がなくなれば、利用者が増えるのは確実です。

 エールフランスKLM側は当然のことながら、収益の上がっている定期路線の廃止は最悪の自体を招くと危機感を募らせています。同社は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)による大幅減益で、現時点で8,000人から1万人規模の人員削減を計画中です。政府は人員削減を踏みとどまるよう求めていますが、今回の方針はエールフランスKLM救済には逆効果です。

 コロナ禍後の経済再建が急がれる中、フランス政府はエールフランスKLM救済のため70億ユーロ(約8,200億円)の救済資金を拠出する条件として、短距離路線を廃止し、鉄道に代替する方針です。ルメール仏経財相は、「ブラック・チェック(白紙小切手)を渡すわけにはいかない」として救済の大義名分は環境対策が条件というわけです。

 しかし、利用者にとっては選択の幅がなくなり、航空業界には致命傷を与えかねない政府の方針に業界からは複雑な反応がかえってきています。

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