american-flag

 「私は、この国に20年以上住んでいる」とか「私は5年間しか住んでいないので新米です」という人によく出会います。最近ではブログを書く人も増え、夫と駐在する国の生活の様子などを伝える日本人も増えました。それ自体はいいことで、新鮮な心で私とは異なった視点で滞在国を見ていることが参考になることもあります。

 しかし、最悪のケースもあります。最近、アメリカ西海岸で出会った和食レストランを経営する日本人オーナーは、30年以上アメリカに住んでいるのに、アメリカの文化や価値観を何も理解していないのでは思い、驚かされました。

 多くの外国人はアメリカに住むとどんどんアメリカ文化に取り込まれていくのが普通で、アメリカは自由と平等、公正と正義の理念で人工的に作られた数少ない国なので、多文化を受入れながらも国家の価値観へのこだわりは強いために、アメリカ独特の文化の中に自然に取り込まれていくわけです。

 そのため、日本では絶対に見ない日本人にアメリカでは出会います。それも善くも悪くもと付け加えておきたいと思います。よく見かけるのは夢を描いてアメリカに渡り、形は留学だったり、仕事を求めてだったり、結婚だったりしますが、想像よりは甘くなく、夢は崩れ、その日暮らしで日本人としてのアイデンティティやモラルも失うケースもあるからです。

 そんな元日本人は、アメリカでの滑り出しで語学を真剣に学ぶこともアメリカの文化の本質を知ることもなく、自分の頭の中に日本にいる時に出来上がったステレオタイプのアメリカのイメージだけがあって生活をスタートさせるケースをよく見かけます。

 アメリカン・ドリームをかなえる人は、ごく少数でしかなく、それも信じられないような努力をし、何度も挫折を繰り返しながら再起した人たちです。逆に最悪なのは言葉の問題があるためにアメリカでも、日本人が経営する日本人相手のビジネスの会社に勤めることです。無論、立派な日系企業が日本人を現地採用するケースもありますが、その場合はアメリカの高等教育を受けたケースです。

 挫折組の日本人を雇う日本人が経営する会社は、超安月給で過酷な労働を強いているケースが多く、それで辞めれば変わりはいくらでもいるという超ブラックです。まともな会社や日本レストランでは日本人の留学崩れは雇うなという話をよく聞きます。

 私が出会った人は30年以上アメリカに住み、ゼロからレストランを立ち上げ、このコロナ禍でも生き延びている立派な人です。しかし、彼もまた、初めの内、初心貫徹から脱落した日本人を雇っては失敗し、むしろベトナム難民の親を持つようなアジアのマイノリティーの方が仕事熱心で真面目に働くということが分かり、今では従業員の大半が親の代からアメリカに住むアジア系の人々だそうです。

 その日本人オーナーの個人的課題は子供の問題です。子供はアメリカで育ち、大学も卒業し、立派な仕事に就いていますが、親に対してきつい言葉が多くなり、夫婦で途方にくれているというのです。特に人生に対する考え方が大きく親とは違っていて、非常に独立心や自己主張が強すぎると親は感じています。

 父親は「私が今も理解できないのは、小学校の時からこの国ではディベートに力を入れるんです。そうすると子供の癖に一人前の自己主張をするようになる」といい、それがトラブルの種だというわけです。そこで私は丁寧に日本とアメリカのコミュニケーションスタイルの違いについて話しました。

 共有する文化に大きな差異のない日本人のコミュニケーションには暗黙の了解とか以心伝心という言葉以外の「察する文化」があるけれでも、世界中から異なった人種や宗教、価値観を持って人たちが集まってできた多民族、多文化社会のアメリカでは、前提となるコンテクストの共有は困難なために、より丁寧で分かりやすいコミュニケーションスタイルが求められるわけです。

 日本でも相手に伝わっていると思っていたことが伝わっていなかったりすることもありますが、そんなレベルでないほどの違いを抱えているのがアメリカ社会です。そのため、ディベートにより、コミュニケーションスキルを磨く必要があります。伝えたいことを何度も言い換えて表現し、それも論理的に伝える努力が必要です。

 それでも、あっという間に誤解や、すれ違いが生じるのがローコンテクスト社会です。しかし、残念ながら、裸一貫アメリカに渡り、夫婦で苦労しながらレストラン経営をしてきた私の会った日本人は、そのことに30年間気づかなかったそうです。

 それを聞いて私は複雑な思いになりました。その夫婦は両方とも非常に保守的な地方で育ち、日本が何でも一番で西洋人は東洋人に比べ野蛮だといわれて育ったそうです。それでアメリカに移動する時も日本人に劣るアメリカ人に日本の優れた和食を食べさせ、啓蒙しなければならないと思ったそうです。

 今どき驚くような話ですが、案外、和食の料理人の中には、この考えが少なくないそうです。日本文化の海外への伝播を使命と考えるのは当然かもしれません。その考えがあったからこそ、日本人としてのアイデンティティを保ち、今日までビジネスを生き延びさせてきたのも確かです。

 しかし、その一方で自分の子供たちにその精神を受け継がせることは難しいようです。アメリカの教育を受けた子供たちは日系アメリカ人です。個人の主張や権利も大切に考え、理不尽な上司にじっと我慢したり、忖度できようには育っていないのです。

 さらに問題を複雑にしているのは、多くの日系2世は学校や地域社会でいじめに遭う確立が高いことです。親は英語が十分でないだけでなく、アメリカで教育を受けた経験もないため、子供をサポートし守ることができず、子供は学校で苦労し、多くは心に深い傷を負っています。

 アメリカ国内で起きた銃乱射事件としては当時史上最多の33人が死亡したバージニア工科大学の事件の容疑者は、8歳の時に家族でアメリカに来た韓国人でした。彼もまた厳しい差別といじめの中で育ち、心に深い傷を負っていたわけですが、親は言葉もアメリカ文化も理解せず、子供を守りきれなかった典型例です。

 日本の国旗が背中に立っているような和食レストランのオーナーは「こんなところに日本人が」のテレビ番組に出てきそうですが、実はそのアメリカに対する上から目線がアメリカの文化の理解を遠ざけ、子育てで苦戦する結果を生んでいると見られます。

 私は海外で日本人が日本人としてのアイデンティティを持つことは批判しないし、むしろ重要だと思いますが、問題は相手の文化との優劣を考えてしまうことです。その思考が理解を遠ざけてしまうのは確かなことです。いずれ歴史をみれば優れた文明に自然に吸収されていくもので、虚勢を張る必要はまったくありません。

ブログ内関連記事
人種差別排除で浮上したCSV 持続可能なグローバルビジネスに欠かせないダイバーシティマネジメント
懸念されるコロナ後のニューノーマル 憎悪の罠にかかれば異文化理解も問題解決も遠ざかる
異文化理解の文化の物差し 偏見ではなく寛容さがグローバルビジネスの成功の鍵を握る