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 新型コロナウイルスのパンデミックは、われわれの住む世界に存在する様々な問題をあぶり出しましたが、新たな日常であるニューノーマルは自然に訪れるわけではありません。あぶり出された問題点を一つ一つ問題の本質を突き止め、改善するのはわれわれ人間です。

 裏を返せばニューノーマルも人間次第という事でしょう。

 世界で最も株主至上主義のアメリカで、企業活動を見直す動きも始まっています。株主の大多数は金儲けが目的です。彼らが投資するポテンシャルの高い企業とは儲かる企業です。売れる商品やサービスを持ち、組織統治がしっかりし、優秀な人材がいて効率性が高いと思われる企業です。

 私自身は過去に総額数百億円規模のプロジェクトに関わり、それをスタートさせる資金調達を担当したことがあります。資金調達には様々な課題がありますが、プロジェクトそのものがどこまでしっかりしているかが鍵を握ります。

 今では日本でもプロジェクト・ファイナンスという考え方が定着してきましたが、その事業に関わった20年前は、日本の金融機関や投資家にプロジェクトを読み解く能力は、それほど求められておらず、関わる企業の信用度や担保にばかり目がいっていた時代でした。

 同時にそのプロジェクトには社会貢献的要素がかなりの比重を占めていたことが大きな壁になりました。たとえば銀行融資でやってはいけないことは、反社会勢力に金を貸すことは当然ですが、人道支援などの社会貢献が中心のプロジェクトにも融資しないという壁がありました。

 つまり、利潤追求と「いいことをする」ことには親和性が薄く、むしろリスクと考えられてきました。ところがコロナ禍で家電メーカーがマスクを作るなど、異業種でも人助けの公共衛生に繋がる分野に参入し、一挙に企業評価を高めている企業が出てきました。

 コロナ禍は様々な格差をあぶり出しましたが、学校閉鎖になり、遠隔授業が始まった時点でパソコンを持たない家庭、インターネットが繋がらない地域など、遠隔授業を可能にする基本的な装置が整備できないことに気づきました。フランスでは、そもそもネットが繋がらない地域が今でもあり、教育の不平等が問題になりました。

 コロナ感染者の治療に集中する病院に、他の病気で治療を受けたい患者は病院に行けなくなったり、そもそも車もなく、移動手段がないために大病院に行けずにコロナで亡くなった人もいます。高齢者は医療崩壊を防ぐためにICUに入られず、自宅で死を待つしかない状況が世界中で発生し、同時に遠隔治療の有効性が注目を集めています。

 両者共にネット環境と端末デバイスの整備が急務ですが、これは当然、ビジネスチャンスでもあります。デジタル革命を牽引する企業は社会貢献にもなる事業に参入しています。数年前まではリスクと捉えられていた社会貢献との結びつきは、今や問題解決こそがビジネスの中心になりつつあるともいえそうです。

 つまり、社会におけるビジネスの役割をどう理解するかということを正面から再検討時代に入っているということです。たとえばアメリカ企業は過去のいかなる時代より株主だけでなく、従業員、顧客、サプライヤー、そしてより幅広い社会支援に意識を持つようになっています。

 それは企業活動を含め、人間の生きる原動力が幸福追求にあるという自明の理に気づいているからともいえます。経営者が従業員を搾取する、パワハラ、セクハラ、不正経理、下請けへの不当な圧力、競合他者の徹底排除などは、けっして幸福を生むものではない行為は結果的に自滅の方向に向かうことに気づいているということです。

 同時に革新的なテクノロジーや画期的なビジネスモデルが、社会問題の解決に大きく貢献することがコロナで明確になりました。今のワクチンや治療薬開発のスピードは過去にないものといわれています。これも自由競争が生んだものですが、同時に情報共有がなければ質の高い薬品を迅速に作り出すことはできないことにも気づいています。

 そして鍵を握るのが新しい社会的価値を産み出すクリエイティブな精神です。持続可能な社会とは創造性が中心におり、それを保証するのは自由とダイバーシティです。つまり、他の価値観を認めようとしないキャンセル・カルチャーを生む社会主義や特殊な排他的思想とはまったく異なります。

 その自由の進化が問われているのがポストコロナだと思いますが、その自由も実は他者を尊重し、人間一人一人の価値を絶対視する社会規範やモラルが前提です。黒人の人種差別への抗議運動は、過去にない多人種が参加しているところは注目点ですが、同時に彼らの一部の常軌を逸した行動は人道に反した絶対に認められないものです。

 ポストコロナは受け身では何もなりません。多くの犠牲を払った今回で出来事から何を学習し、何を修正するかは人間次第だということです。

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