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 ビジネスの世界では21世に入り、カルチャーダイバーシティが重視されるようになりました。たとえば同じアジア人が協業しようとしても、宗教も価値観も様々です。同じアジア人としてのくくりがないわけではありませんが、それでも日韓関係を見ると、似て非なるものの多さに驚かされます。

 ところがわれわれの直面する世界では、日本人なら日本人だけで頭を突き合わせて目の前の課題を解決しようとしても限界があるのに対して、日本人では絶対にしない発想が異なる文化を持つ人から与えられ、新たな解決策が見つかることが増えています。つまり、文化の違いをネガティブなものとして扱うのではなく、違いをポジティブに捉え、プラスを生んでいくという考えです。

 実はアメリカが簡単に滅びない重要な要素の一つが、世界中から異なった文化を背景に集まった人々に平等なチャンスを与える高い理想を掲げ、ダイバーシティ効果を発揮し続けているからです。無論、理想と現実には大きなギャップがあり、現在再浮上している黒人差別問題などは高い理想を掲げているからこそ起きている問題です。

 つまり、過去何度も起きた人種間の問題は、理想に人間が追いついていないために起きているともいえます。自由、平等、公正のアメリカの価値観の3本の柱からすれば、差別は良くないわけですが、人間は弱いもので白人は一旦握った既得権益を離そうとしません。

 異文化を理解する前に、人は優劣を見ようとし、黒人は民度が低いから静かにしていろという風潮もあります。そこにさらにイスラム教徒の黒人は、キリスト教徒から敵対視されています。東洋人もコロナ禍が中国が発信源だったことで欧米諸国だけでなく、南米やアフリカでも差別が起きています。

 東洋人は身体的に見ても小さく、顔も体も凹凸がなく、メリハリがはっきりしないのも蔑視の対象です。人は自分に自信のない分、何か相手との優劣を見つけ、優越感を持とうとします。あらゆる場面で競争を好むアメリカ社会で差別が起きるのは当然といえることかもしれません。

 中国の巨大病院施設の建設現場で監督を任された黒人を知っていますが、世界中で現場監督の経験のある彼は中国人の黒人差別は、今まで経験したことのないものだったといいます。黒人に対する上から目線は堪えられないもので、実際、数か月で中国を離れたそうです。

 カルチャーダイバーシティのマネジメントでは、まずは問題抽出が重要です。どんな問題が潜んでいるのかの把握は容易ではありません。しかし、それをしない限り、違いをプラスに変えることはできません。その時にすべての関係者に平等に聞き取りを行うことが重要です。

 たとえば今回のアメリカ・ミネソタ州で起きた警察の拘束下で死亡した黒人男性フロイドさんの事件をきっかけに起きた抗議運動では、無論、黒人にしか分らない差別の現状を聞き取る必要もありますが、同じ当事者である警察官らの聞き取りも必要です。

 フランスでは警察官への聞き取りも行わず、フランスで起きた同種の抗議デモを押さえ込むために、抗議者の声だけを聞いて、警察内部で人種差別が確認された警官は即刻停職処分にすると約束したことで、警察官が強く反発し、警官の士気が一挙に落ち、収拾がつかなくなっています。これは失敗例です。

 正確な現状把握に努力することで見逃しをできるだけ回避し、課題が見えてきたら、今度は解決のための方策を立て、それも具体的なアクションプランを作ることが重要です。さらにその進捗を管理するためのPDCAなどを効果的に用いて、問題を取り除いていくわけです。

 PDCAの失敗例の一つが、最初のP(プラン)がお粗末なことです。PDCAの考え方の根本は、仮説と検証ですが、最初の仮説がお粗末であれば、仮説に基づく実行やその検証作業もお粗末なレベルに終始し、成果は得られません。つまり、現状把握とその分析に最も時間を掛ける必要があるということです。

 一方、衝突や対立、摩擦が起きやすいカルチャーダイバーシティ状況をポジティブに変えるには、ベースになるルール作りが必須です。それは日本のような単一民族であれば似た価値観を共有しているので、ルール化する必要がないものもあります。今回のコロナ禍で世界で唯一ロックダウンの法的行使をしなかったのは「要請」レベルでも日本人は真面目に守るという前提があったからです。

 こんな価値観の共有はダイバーシティ環境では不可能なので、誰もが分かるルール作りが重要です。それもそのルールには賞罰があるだけでなく、道徳的側面も必要です。誰もが同意できる道徳的価値はビジネスにも有効です。人間が信頼関係を構築する上で道徳的価値は極めて重要です。

 今の人種差別の社会的混乱には道徳的価値が欠落しているように見えます。差別を受ける側の論理と無意識差別している側の両者に内省が見られません。どちらにも道徳的価値があれば、許すことも愛すこともでき、一つになる道はあるはずです。自由主義世界の脆弱性は、この道徳的秩序への依存度に左右されます。

 私は今回の人種差別抗議運動の影に特殊な思想や某国がフェイクニュースを流し、自由主義世界の分断を謀ろうとしているという謀略論も指摘されています。もしそうなら自由と民主主義はコロナ後に大きなテストを受けているともいえます。

 言論の自由、信教の自由を保証する自由と民主主義社会の正当性が問われているということです。ここで社会の対立を深め、憎悪が渦巻き、解決不能に陥れば、これは自由と民主主義の敗北です。自由主義の正当性は様々な混乱があっても最後には正しい道を見出し、社会を進化させられることです。

 その鍵を握るのは軽視しがちな道徳的秩序です。公正な社会の実現という共通目的に向かった問題解決していこうという信念です。どちらが正しいかではなく、対立する両者が正しい道を見い出す努力をすることです。それはカルチャーダイバーシティ・マネジメントでも同じです。

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