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 中国が定めた国家安全法により高度な統治を可能にする1国2制度が危機に晒されています。学生たちは社会正義を掲げて戦えますが、ビジネスの世界は厳しい状況に追い込まれています。特に中国との関係が不可欠な企業にとって、対立する中国と欧米との間でどちらに重心を置くのか苦しい選択を迫られています。

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は「中国か欧米か、”踏み絵”迫られる香港ビジネス」という記事を掲載し、新型コロナウイルスで窮地に立つキャセイパシフィック航空を例に出し、中国政府の支援が不可欠な状況の中で、中国の国家安全法を支持しなければ生き残れない状況を伝えています。

 これまで中国と欧米を結ぶ玄関口の役割を果たしてきた香港は、小さな漁村だった隣接する中国側深圳に近代的高層ビルが建ち並び、中国全土から成功を夢見る若者が集まる中国のシリコンバレーを産み出しました。今や香港は広域経済圏「一帯一路」に深圳と共に組み込まれ、それを象徴するのが2018年に開通した広深港高速鉄道です。

 香港と中国南部の主要都市(広州-東莞-深セン-香港)を結ぶ全長約140kmの高速鉄道、広深港高速鉄道は、そこから北京に到達し、着々と1国2制度は骨抜きになっています。今度は香港に拠点を置く多くのグローバル企業に中国は踏み絵を踏ませようとしています。

 事実、香港と縁の深い英金融機関HSBCは、国家安全法に支持表明する書簡を送ったことが報じられています。世界は今、米中の経済対立が政治的対立に発展し、グローバル企業は難しい選択を迫られています。今後、たとえば日韓関係の悪化の中で両国にまたがってビジネスを展開する企業は厳しい選択を迫れる局面に差し掛かる可能性もあります。

 分断や対立はビジネスにとっては大きなマイナスです。それを深めているのは考え方の違いを超えて一つになろうとする流れを止める不寛容さです。無論、考えを異にした国や勢力が攻撃を仕掛けてきたら、自衛の対応をするしかありませんが、それだけでは問題解決にはなりません。

 よく異文化理解では「文化の物差しを持とう」といいます。相手を理解するには育った環境、宗教、価値観、歴史など、その人々に刷り込まれた様々な要素を理解する必要があります。たとえば日本人から見れば理解不能な言動の多い韓国ですが、長い間中国の属国として過ごし、ロシアや日本という大国に囲まれて生き延びてきた歴史を知ると、その複雑な心情が生む不可解な言動も理解できます。

 実は異文化理解で最も難しいのは、その国が持つ文化や慣習、価値観が「それでいいの?」と思うことです。日本以外の国では嘘をつくことは、それほど悪いこととは思われていません。「嘘は泥棒の始まり」と日本ではいわれますが、グローバルビジネスでも契約の前提となる事柄に嘘があったりします。

 駐在員家庭にとって、最も恐怖なのは子供の誘拐です。世界中に人身売買する犯罪組織が存在し、日々、誘拐の機会を伺っています。だから、保護者なしの登下校はありえませんし、公園で子供だけで遊んでいる姿は日本以外では見かけません。人身売買の理由は「貧しいから」といいます。

 北朝鮮に拉致され今だに消息が分らない横田恵さんの父、横田滋さんが涙ながらに無念の思いを抱えて亡くなりましたが、実は世界中で児童誘拐は起きています。悪を憎んで人を憎まずといいますが、許容できるような話ではありません。

 そういう日本でも、私がフランスのビジネススクールで開催した日仏ビジネスイベントで、日本の暴力団の詐欺にあった経験を持つフランスの会社経営者が経験を語っていました。モラルが高いことで世界的評価を受けている日本を傷つけるものですが、実際に起きていることです。

 つまり、異文化理解は善悪の価値観からくるネガティブな要素によって、悪いイメージが定着し、その偏見が理解を妨げることは多々あるということです。異文化理解に入り込む善悪は、相互理解を難しくする最も大きな存在です。

 今、全世界で起きている警察の暴力と黒人差別問題でも、警察批判に反対する白人の中には黒人の犯罪率の高さを持ち出す人は少なくありません。それに過激な抗議行動を背後で煽る極左グループへの憎悪もあります。そのうち過激な極右グループと深刻な衝突が起きるかもしれません。

 様々に異なった考えが存在するのは当り前ですが、何が正しい選択かを議論することが重要です。にもかかわらず敵対勢力への憎悪ばかりが増幅され、議論の余地もなくなっているのが実情です。互いがネガティブな偏見を相手に抱き、相手を叩き潰そうとしているようにしか見えません。

 固定観念は思考停止を意味します。グローバルビジネスでも偏見は何の役にも立ちません。信頼関係構築を遠ざけ、成功は望めません。しかし、現実には世界各国で出会う日本のビジネスマンは偏見の病理に蝕まれている例は少なくありません。

 そこで重要なのは寛容さです。価値観を持ち出せば瞬時に人を裁いて、それ以上の関係は望めなくなってしまいます。無論、間違いを正す努力は必要だし、毅然とした態度も大事です。しかし同時に寛容であることは相手への理解を深め、たとえ考え方に大きな違いがあっても信頼関係を築くことは可能です。とにかく自分の心の中に巣くう差別の病理を蔓延らせないことです。

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