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 今月発売の雑誌「正論」7月号で「コロナ後の悪夢になる中国の債務の罠」という記事を執筆しました。周到に計算された世界支配のための債務の罠包囲戦略が、コロナショックがもたらした景気低迷で世界を危機に陥れるという内容ですが、どうも習近平政権にはその周到さに変化があるようです。

「能ある鷹は爪を隠す」という諺があります。日本人には至極当然と受け止められていますが、どうやら中国や韓国ではそうではないようです。面子を大切にするこれらの国では、虚勢を張るとか相手を貶めて自分を立派に見せるという文化もあるからです。無論、両国にも謙遜を美徳とする文化がないわけではありません。

 中国で16世紀の明の時代の小説「西遊記」には、“真人不露相, 露相非真人”という故事出てきます。直訳すると「能力のある人は本当の様子を見せず、本当の様子を見せる人は能力のある人ではない」となり、「能ある鷹は爪を隠す」と似た意味です。

 中国人や韓国人に聞くと、本当の様子(自分の実力)を見せない態度は自信の現れを意味するので、わざと謙虚な態度をとって自分をよく見せようとしているという説明もあります。あからさまに自慢話をするのはみっともないというのは、世界中どこでも同じなのかもしれません。

 しかし、韓国が中国と異なるのは、自分たちはいつも不当な評価を受けているという複雑な思いです。中国は400年前には世界有数の偉大な文明国だったとか、多くの哲人、文学者を産み、目に見える形での繁栄を表す建物や美術品は数知れず、中華思想で周辺国を見下してきた歴史もあります。

 一方、韓国は中国に隷属する長い歴史を持ち、ロシアや日本などの大国に囲まれ、最後は中華思想からすれば、自国より野蛮な日本の統治を受け、自尊心を踏みにじられ、はらわたが煮えくり返るような思いもし、歴史的に自分たちが正当に評価されたことがないという悔しさを抱えていると指摘する専門家は少なくありません。

 いずれにしても、今の中国は能あるタカは爪を隠すどころではなく、香港との一国二制度を骨抜きにする国家安全法を制定し、南シナ海では軍事基地を拡大し、尖閣諸島周辺を中国船がウロウロし、台湾に対しても強圧的でアメリカにも牙を剥いています。

 経済力がついたことで、あちこちで爪を立て、結果的に警戒感はアメリカだけでなく、今ではヨーロッパ先進国から東南アジアまで、中国覇権主義に対する恐れを抱くに至っています。欧米大国は保護主義の度合を深め、外資に最もオープンだった英国でさえ、外資規制に舵を切りました。

 中国政府系の投資会社キャニオン・ブリッジ・キャピタル・パートナーズは、アメリカでの米半導体メーカー買収を政府に阻止された2017年、その2週間後には英半導体メーカー、イマジネーション・テクノロジーズを買収しました。当時、中国政府の支配を懸念した英政府に対して、中国への技術移転はしないと約束しました。

 ところがキャニオンは中国国有の投資ファンド、中国国新から取締役として4人を迎える案について緊急協議し、中国国新はイマジネーションの株式35%を保有するに至り、約束は反故にされました。英政府に対して外資規制を求める圧力は強まるばかりです。

 アメリカのトランプ大統領の自国第一主義の保護主義を強く批判し、自由市場主義を擁護しながら、その自由市場主義を利用し、知財を自国に集めてきた中国は、矛盾の固まりです。今では能あるタカは爪を隠すのではなく、経済が弱体化した先進国を恐喝するような姿勢に転じています。

 世界は今、中国の研ぎ澄まされた危険な爪の正体を理解し始めています。爪を隠して半世紀を過ごし、今、十分に実力を蓄えたので爪をむき出しにしているということなのでしょうが、けっして中国にとっても世界にとっても得策とは思えません。

 中国共産党は終わりの始まりの一歩を踏み出したのかもしれません。問題は中国国民がどこまで習近平国家主席についてくるかでしょう。

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