Hong_Kong,_Taiwan_flag

 コロナショック後の国際情勢にとって、香港、台湾問題は世界の今後を占う鍵を握ると思われます。それは大統領選を控えたアメリカのトランプ大統領が得点稼ぎで中国を叩いていることや、経済成長が鈍化する中国で習近平政権が不安を抱える国民の目を国外にそらすというレベルの話とも思えません。

 英国統治時代の香港で最後の総督を務めたクリス・パッテン氏は英タイムズ紙のインタビューで「中国は(香港や国際社会を)欺いている。物事を自分たちの都合のいいように無理やり合わせようとし、それを指摘されると、『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』(中国戦争アクション映画)に出てくる外交官たちのように恫喝して相手を黙らせる」と最近コメントしました。

 『戦狼』は2017年に公開され中国制作映画としては歴代興行成績1位を記録した映画です。その中に出てくる中国外交官の高圧的、威嚇的態度こそ、中国そのものと指摘しています。われわれはアメリカから新型コロナウイルス問題で叩かれ、猛反発して威嚇を繰り返す中国報道官の態度を毎日のような映像で見ています。それもその一部でしょう。

 しかし、実は驚くような話ではありません。ビジネスの世界では中国とのビジネスをする上で日々遭遇することで、たとえば、ビジネス交渉は立場のいかんに関わらず、同等以上、つまり上からの立場で交渉してくるのは当り前だし、面子を潰されたと思うと恐ろしいほど威嚇的態度に豹変するの常です。

 アメリカに「武漢ウイルス」と揶揄され、国際的面子に傷がついたので猛反発して威嚇しているのは当然の流れです。

 ビジネスの契約締結後に契約内容を変更するのも平気な一方、自分にとって都合が悪くなると、今度は契約書の1項目を掲げて攻撃してくることは、よくあることです。利益が得られないと分かると、それまで築いた人間関係など何もなかったように撤退します。

 だから中国ビジネスに関わった経験のある人なら、中の外交官の態度は新しい話ではありません。ただ、国際常識としては、ビジネスと政治は違いますが、中国はその境目がないのです。利用できるものはなんでも利用し、自分の都合で法は利用するもので都合が悪くなれば無視するのが常です。

 ヨーロッパでは「中国人は息をするように嘘をつく」といいますが、中国国内では嘘は方便であって悪いこととも捉えられていません。問題は先進国で常識化している遵法意識や社会規範は通じないだけでなく、中国には中国独特の価値観があり、中国は他のいかなる価値観にも与しないということです。

 たとえば、中国が政治と経済を一帯運用していることを欧米諸国は長年気づいていませんでした。たとえばロシアは自国の東西に隣接する日本と欧州に対しては経済関係を優先し、アメリカとは政治対立するという使い分けをしてきたわけですが、中国は違います。

 私は1990年代、日本と欧州の新たな関係について欧州の識者10人以上のインタビューした時、彼らのほとんどが「欧州と日本は経済関係はあっても政治的関係がないのが足かせだ」といっていました。つまり、日欧は政治的課題を共有する関係を築くべきだと意見が大勢を占めていました。

 政治と経済を完全に分けて考える欧州では、ドイツを先頭に英国、フランスが、この20年、中国との経済関係強化に動いてきました。とくにドイツは中国との経済関係を強化することに早い段階から躊躇しませんでした。あれだけ元共産国のロシアを警戒してきたドイツの割り切り様には驚かされました。

 その意味で中国を大国に押し上げ、威嚇的態度で覇権を強める中国を作ってしまったドイツの罪は重いといえます。英国は反共国家としてロシアを常に敵対視ながらも、中国からの投資を大歓迎しました。中国主導のアジア・インフラ銀行(AIIB)にも1番乗りで参加しました。

 遅れをとったフランスは、サルコジ時代から大統領が財界を率いて訪中ビジネス外交を展開し、大口契約を結ぶことに今でも余念がありません。実は中国にとっては欧州との経済関係強化は政治的意味の方が大きく、国際社会を動かす欧州先進国を取り込む狙いの方が大きいといえます。

 アメリカも欧州も中国が経済成長すれば世界のルールを学び、いつかは社会主義を捨て、民主主義、資本主義国家になるという甘い読みがありました。ところが中国を国際社会に引きずり込むどころか、中国が世界を引きずり込もうとしている状況です。

 中国全人代は香港との1国2制度を終わらせるべく、香港の治安維持を口実に中国中央政府の権限強化を法制化しようとしています。これにより1997年の香港返還の際にイギリスと中国の間で交わされた「一国二制度」の下で香港は少なくとも2047年までは自治を維持できるという合意は破棄されることになります。

 中国の一国二制度という考えは中華思想からきているもので、中国に周辺国を従わせるための第一段階でしかありません。その特殊な考えを読めなかった欧州やアメリカ、日本の罪は重いといえます。無論、欲しいものを手に入れるためには正体を隠すのが得意な中国ですから、気づかなかったのも無理はないかもしれません。

 いずれにしても世界第2位の経済大国という地位を与えてしまったことで、ブレーキのかからない支配欲にかられる獰猛な猛獣と化した中国と、今後世界がどう付き合っていくかが世界の行方を大きく左右するのは確かなことです。