Tiananmen_beijing_Panorama

 中国は幾多の試練を乗り越え、この3年間はアメリカのトランプ政権の対中強硬姿勢の逆風に晒される中、大国としての地位を固めるため、着々と対処してきました。リーマンショックの時は世界は中国経済に助けられ、ギリシャの財政危機ではギリシャの重要観光名所の買収で中国マネーがなだれ込みました。

 しかし、数字だけ見ると、惨めな「世界の工場」を脱して、経済格差の低い世界を魅了する先進国並の豊かさと繁栄を手にしているかといえば、その段階にないことは中国政府もよく知っているはずです。世界の工場としての機能への依存度は、まだまだ高く、目標とする安定した大国にはほど遠い現実があります。

 新型コロナウイルス対応で異例の2カ月半遅れで今月22日には始まった年に1度の重要会議、全国人民代表大会(全人代)では、2020年の経済成長率の目標設定は25年来で初めて見送りとなりました。さらに国民にとって重要な雇用目標は、失業率は昨年の5.5%より低い6%前後、都市部の新規雇用も昨年目標の1,100万人以上から900万人以上に引き下げました。

 一方、1国2制度を骨抜きにされることを警戒する香港が昨年、何度も激しい抗議デモを行ったことに対しては、何の説明にもならない「香港の安全を守るため」という理由で締めつけを強める強い意思を示しました。香港、台湾問題は新型ウイルスの終息宣言ができず、経済減速で国民の不安が拡がる中、目を外にそらす唯一の政治課題といえるものです。

 中国政府は、この危機的状況を捉え、経済成長だけが政府に課された至上課題という状況を脱し、国家の安定に注力する方向転換をしたいようにも見えます。中国共産党は一党独裁の正当性を常に最大の課題としており、今回の危機で国民が生活苦に陥らないよう大規模な財政出動する構えです。

 今はGDPより雇用を重視し、国民を安心させたいというところでしょう。最も中国政府が恐れているのは国民の間に政権への不信感が高まることですが、中国が未だ世界の企業の生産拠点であり、貿易依存度が高いことを考えれば、コロナ禍の世界的景気減速の影響を受けない訳がありません。

 そうなると習近平国家主席率いる中国政府に対する国民の目が厳しくなることが予想され、対米外交に始まり、何にでも強気だった習近平政権は、足元が揺らぎ、厳しい立場に追い込まれる可能性もあります。

 中国共産党指導部は来年結党100周年を迎えるにあたり、経済規模を10年前の2倍にする目標を掲げていましたが、今はその話も封印されています。今は我慢のしどころでコロナ禍の責任追及に対して世界的面子を保つことに沈黙していますが、当然、起死回生を狙い、様々な戦略が練られていることでしょう。

 たとえば国際機関のデータに記録されていない途上国、新興国への債務の罠戦略で多額の融資を行い借金漬けにしている相手国の唯一の収入源である資源価格が暴落した場合、中国は借金のかたに重要インフラ施設や資源獲得権をただで手にし、資源もただ同然に輸入することも考えられます。


 最も標的とされるのは、中国に対して弱腰で超ナイーブな日本だと私は考えています。日本経済界の懐柔政策が今後、加速する可能性があります。コロナ禍でサプライチェーンの寸断で痛い思いをした日本企業が生産拠点をベトナムやタイ、インドネシアなどに移動させる動きを封じ込めるための方法も考えているでしょう。

 その日本も足腰が弱っているので、強気には出れない状況です。しかし、この機に中国に対して厳しい条件を突きつけるくらいの気概は必要でしょう。利用できるものは何でも利用し、利用価値がなくなれば捨て去る中国に対して、今後も高い警戒が必要です。

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