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 欧州連合(EU)の中で統合を牽引してきたフランスとドイツは、戦後、良きパートナーであり、いい意味での競争相手でした。両国の外交官の間では仏独の国際結婚者も増え、かつてナチスドイツがフランスの半分を占領した時代の恩讐は嘘のような協力関係を構築しています。

 そんな両国に、ある問題が生じ、特にフランス国民は複雑な思いを抱いている。それは新型コロナウイルスの感染死者数がフランスが今月18日時点で28,239人なのに対して、ドイツは7,975人と少なく、人口(フランス 約6,700万人、ドイツ 約8,300万人)を考慮したとしても、フランスでドイツの3.5倍の犠牲者が出ていることです。

 無論、感染者数も死者数も正確な数字とはいえず、死者数ではフランスや英国は高齢者施設や自宅で感染で亡くなった人を当初は数えていなかったり、感染者数に至ってはPCR検査の実施率によって数は大きく異なるため、科学的証拠として、どこまで判断材料になるか不明な点もあるといわれています。

 とはいえ、この際、感染者数以上にわれわれ一般市民にとって重要なのは死者数です。アメリカで9万人もの死者が出て原因究明をしないでいられるわけはありません。フランス国民にとってもドイツの3.5倍の死者数は看過できない数字です。

 複数のフランスのメディアは当然、この結果について様々な分析を行っています。結論からいえば、ドイツではすでに通常の医療活動を妨げずにウイルス検査をする体制が整備され、迅速に徹底して感染の有無を検査したことと、感染者の隔離など初動の速さがあったということです。

 ドイツは今年1月17日、特定集団から、特定の疾病を有する確率の高い人を選別するスクリーニングテストを開発し、世界保健機関(WHO)にもデータを報告していました。この時点では中国が新型コロナウイルスが人から人へ感染することや、武漢での治験データを隠蔽したため、情報は極端に不足していました。

 しかし、3月にヨーロッパで本格化した感染検査の前までは、このスクリーニングテストが実施されていたのは事実です。一方、フランスは1月17日といえば、年金改革への抗議デモやゼネストを繰り返す労働組合との話し合いに政府は追われていた時期です。

 中国当局が武漢の人口の封じ込めを命じた1月23日、アニエスブザン仏保健相(当時)は、病院に緊急警戒を呼び掛け、スクリーニングテストを実施していますが、実はそのテストはフランスがドイツに依頼したものだったと複数のフランスのメディアが数日後に明らかにしました。

 翌24日にはパリで1例、ボルドーで2例の感染者らしい事例が報告されたにも関わらず、フランス政府は年金改革デモや集会を放置していました。その後もイタリアで爆発的な感染拡大が始まった時点でもフランスはEU域内からの流入者に何も検査を実施しませんでした。

 リヨンではサッカーの試合にイタリアから千人規模のサポーターが来ていました。今になって分かったことはフランスの最初の感染者は、実は昨年12月にいたことが判明し、その人物の関係者が中国旅行者と日頃接触する空港職員だったことも分かってきました。

 ドイツでは4月初旬には1日当たりの5万件程度の検査が実施され、1日2千件程度の日本の25倍に達していました。ドイツは検査で医療関係者に院内感染することを防ぐため、一般患者の治療の現場から検査場所を切り離す多くの工夫がされていました。

 患者を病院に呼び出さず、医師が自宅に訪問して検査キットを使って検体を施設に送る郵送検査の取り組みも始めていました。病院外のドライブスルー式の検査も急増し、感染が疑われる患者は主治医と電話で相談して検査の予約を取り、車で病院の駐車場や公共施設の一角などに設けられた検査場を訪れる方法が早期に導入されていました。

 ドイツで医療崩壊を防ぎながら大規模な検査が実施できた背景には、専門家の初動が早かったことがあげられています。独政府の感染症対策の専門機関であるロベルト・コッホ研究所は、中国での新型コロナウイルスの検出が伝わったばかりの1月6日に内部で作業グループを設置していたのに対して、労組との交渉に追われるフランスは対照的でした。

 話を複雑にしているのは、フランスにも感染症では世界的に知られるパスツール研究所を抱えていることです。ところがドイツ政府がコッホ研究所と連携して対策に乗り出した初動の速さは、フランスには見られなかったことです。

 ドイツは結果、ドイツ初の感染者が見つかった1月末には2交代制で監視を進め、非常に早い時点で新型コロナは従来型インフルエンザよりも約10倍危険だと結論づけました。感染例は少なくても、その危険性を認識したことで、初動も早く、検査も徹底したことが、今のところドイツの死者数が大きく抑えられている主要因といえそうです。

 さらにフランス人に複雑な思いを抱かせるのは、医療に関する国家予算はフランスの方がドイツより多いという事実です。フランスの公立病院では事務職が全雇用の35%以上なのに対して、ドイツはでは24%で、人件費の違いがあり、フランス人なら背景に労働組合があることを容易に想像できます。

 最近、民間企業から公立病院の事務職に転職した女性は「ここでは1人でやれる仕事を3人から5人でしている」と指摘しています。緊急経済支援対策でもドイツ政府はビジネスを支援し、従業員に報酬を支払い、11億ユーロの予算を費やしています。

 部分的失業者、自営業者、自営業者、アーティストの支援、延滞賃金の補償など経済サポートでも、フランスはドイツに負けています。だからフランス人は非常にドイツを複雑な目で見ているわけです。マクロン大統領の支持率が下がり始めたのも無理のないことといえそうです。

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