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 人災という言葉がある。自然災害にせよ、健康危機にせよ、戦争危機にせよ、危機に対する適切な対処を誤る原因が人にあるという場合に使う言葉です。私はアメリカが主張する中国が新型コロナウイルスをまき散らしたという非難は間違っているとは思いませんが、時系列を辿ると人災だった可能性の方が高いと私は見ています。

 具体的には中国・武漢市のトップが、いつものように上に対して、いい報告しかせず、その隠蔽が招いた危機だったと見ています。そこにあったのは市民ではなく習近平国家主席への忖度で生きる保身の固まりの役人体質です。無論、忖度される習近平氏自身が中国共産党の政権維持だけに固守し、国民に向いていないことも危機を拡大させた要因だったことは間違いありません。

 専門家が指摘する昨年12月からの時系列は省略しますが、最終的には武漢のロックダウン発表と実施の間に生じた時差で、市に閉じ込められる恐怖を嫌った何十万人もの市民が武漢から逃げ出したことで無症状感染者が世界にウイルスをばら蒔く結果になったのは事実です。

 リスクマネネジメントで被害を最小化できるかどうかを決める幾つかの重要事項がありますが、中でも現状把握はマネジメントの大前提です。対策はその現状に対して行われるわけですから、正確に把握していなければ、どんな素晴らしいリーダーがいても、真面目に対策を遂行するチームがあっても何もなりません。

 つまり、リスクマネジメントは情報収集と分析力に掛かっているわけです。ところが下から上に上げられる情報に嘘や変更が加えられた場合、危機を押さえ込むどころか拡大させる危険性もあります。その不正確で嘘の情報をもたらすのが下から上へ忖度、自分がいい評価を受けたいという保身です。

 通常、強い権力を持つリーダー、独裁的な指導体制に起きやすい現象で、中国共産党の一党支配だけでなく、安倍政権が今回の新型ウイルス対策で当初迷走したのも、安倍首相の周りが忖度と保身の政治家や官僚で埋めつくされていたからだと私は見ています。

 ヨーロッパでも大統領に権力が集中する中央集権的体質のフランスが、そうでないドイツより感染死者数が3.5倍も多い理由は初動の遅れといわれています。事態の深刻さが正確に大統領に伝わっていなかったことも指摘されています。

 忖度は自分の評価を決める上司に気に入られたいために起きることで、忠誠心が絡む微妙な問題です。その上司もさらに上の上司に忖度して生きている可能性もあります。忖度にもいい忖度と悪い忖度があり、いい忖度は純粋に上司を喜ばせたいというものですが前提は上司を含む全体の利益になるかどうかです。

 悪い忖度は、全体の利益ではなく、自分の利益を先に考える忖度です。何が違うかといえば自分があるかどうかです。自分の出世を会社全体の利益より先に考える人間の忖度は、会社を危機に晒します。例えば上司がまったく現実的でない目標を掲げ、成果主義を押しつけた場合、結果の数字をよく見せるための事実の歪曲や隠蔽が起きてしまいます。

 大企業の不正会計や検査の手抜きなど、コンプライアンスに関わる問題には保身と忖度が渦巻いています。正しいリーダーシップは、そんな人間の心理を見抜き、間違った忖度や保身に走らせないマネジメントが必要です。特にリーダーは気持ちのいい報告には細心の注意を払う必要があります。

 この問題は個々人がそれぞれ自分に考え方を持つ欧米より人が中心の東洋で起きやすい現象です。上司を心地よくすることが重視され、人間崇拝がすぐに起きてします東洋では、リーダーは裸の王様になりやすい。部下によって雲の上に祭り上げられ、その部下によって地に落とさせる場合もある。

 強権がもたらすリスクは、自分で考えることを止めることです。忖度するのに忙しく自分で考えるよりは権力者に従うことが重視され、自分の抱える問題を正しく把握することもでず、判断力を養う機会を奪われたイエスマンは、リーダーとしては役に立ちません。

 新型ウイルスの危機に晒される国家も企業も、この保身と忖度病が蔓延ることが危機を拡大させる原因になっている場合が少なくありません。全員が上だけ向いて仕事をするような組織は危機を乗り越えられません。その体質を持つ習近平氏率いる中国共産党は結果的に国民と世界の両方を欺いてしまいました。

 しかし、それは他山の石として、どこの国にも組織にも潜む疫病だと受け止めるべきでしょう。今回のような本当の危機的状況に陥った時に全員を危険に晒すものです。正しいエンゲージメントを生むのはトップから組織全体までは、一つの目標を共有することであって人間を崇拝することではありません。

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