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 ここ数カ月のテレワークで仕事の生産性が落ちていると感じる人は非常に多いといわれています。特にチームで働くことが多い昨今、職場なら臨機応変に手短に済ませられる上司への質問や同僚との会話が容易でなくなっているという人も少なくないでしょう。

 今は様々なコミュニケーションツールがあり、身体的距離があっても結構、簡単な会話はできるようになっているので、うまく使いこなせば自宅にいても仕事はできるという人もいます。同じオフィス内でもメールのやりとりをするのが習慣化しているケースは非常に増えているので、その部分では問題ない人も増えています。

 通勤時間がない分、プライベートな時間が増えて喜んでいる人もいるし、逆に無限に仕事が流れ込んで長時間労働を強いられている人など様々です。日本の外資系企業で部長を務める英国人の友人は、今までも職場で部下からの大量メールに悩まされていたのが、今はテレワークをする部下から数倍のメールを受け取り「自分はいったい、いつ自分の仕事ができるのか」と嘆いています。

 仕事に取り組む姿勢にはその国の文化が影響を与えるものです。では、多文化チームではどんな姿勢が重要なのでしょうか。日本では20年前から「コミットメント」、すなわち責任を持って仕事に取り組む姿勢が強調されました。きっかけは倒れかかった日本の自動車メーカー、日産にフランスから送り込まれたカルロス・ゴーン氏がしきりに使った言葉だったからです。

 最近、欧米のビジネススクールでは、個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係を構築する「エンゲージメント」の重要さが指摘され、研究も進んでいます。これは会社への忠誠心や愛社精神という意味では日本で語られてきたことですが、違いは個人と組織を平等に扱い、ウィンウィンの関係にするという部分です。

 組織のための個人という考え方の日本と個人を生かすための組織という欧米の考えを合わせたようなニュアンスもあります。もう一つは30年以上前から日本でいわれるようになった「モチベーション」です。部下の仕事へのモチベーションをいかに高めるかというのは今でも大きな課題です。

 想定外のテレワークなどで、仕事のやり方を変える必要に迫られる中、この環境変化の中で最も求められるのは生産性です。そのための「コミットメント」や「エンゲージメント」強化であり「モチベーション」を高めることです。そこで重要さを増すのは、誰がやらなくても自分がやるという主体性と、自らが率先してやるという自発性です。

 主体性も自発性も状況に応じて自分が何をすべきかを考え、判断し、自ら行動できることを指しますが、主体性は自分の意思や判断に重点が置かれます。どちらかというと自分の城は自分で守る的な性質のもので、主体性の強い人の傾向は自己陶酔に陥りやすいことです。結果に正当な評価がないと強い不満を持つ場合もあります。

 自発性は「自ずから発する」と書く通り、自分の内部から発した衝動で行動するという意味で、上司に命令されなくても、状況を判断し、自ら積極的動くことを意味します。チームの目標から自分の役割を悟って自発的に行動を開始し、主体性を持って仕事を進めるというわけです。

 日本人は責任感は強い方なので残業しても仕事をやり抜こうとする人は多いのですが、主体性や自発性によるものとはいえません。テレワークは、この2つがないと結果は出せません。どちらも自分自身の「意志」が明確であることが重要です。

 テレワークは自分と仕事との関係を見つめ直すきっかけを提供しています。過剰に空気を読もうとする日本人は、異常なまでに人に気を使って生きています。それは自分の主体的意志というのではなく、義務のニュアンスが強いわけですが、テレワークではまず空気は読めません。

 生産性の追求が長らく日本でされなかったのは、働く人間が会社中心に動き、長時間労働が問題にならなかったからです。家庭を犠牲にしてでも会社に尽くすのが当り前と考えられていたからです。ところが終身雇用も保証できず、社員に犠牲的に働くことを強いられない環境変化の中で、働くことの意味は大きく変わっています。

 そこに今度はテレワークの推進となれば、働く目的を問い直さざるを得ません。欧米諸国で生産性が強調され、進化させた理由の一つが、働く側も働いてもらう側も、いかに短い時間に少人数で効率よく最大限の利益を上げるかに集中してきたからです。会社側にとっては利益追求と労働コスト、働く側にとっては会社の利益とプライベートの生活の充実が目的です。

 今は日本でも生産性に注目が集まっていますが、これは頭だけで進めるものではなく、会社側も働く側も少人数で短時間に最大限の成果を上げたいという湧き出る欲望がなければ、推進されません。男性なら仕事もおもしろいけど、家族と過ごす時間などプライベートの充実にも満足感を得たいという気持ちがなければ、生産性を上がりません。

 仕事のスタイルを変えるには大胆な発想転換と大きなエネルギー、時間も必要ですが、今回の転換は社員の主体性、自発性を強化し、会社を強くすることに繋げる方が得策です。そのための評価のあり方も根本的に変える必要があります。多くの欧米の専門家が、ビジネスの世界も完全に元の状態に戻ることはないと指摘しており、この際ポジティブな変革に取り組むのが正しい選択だと思います。

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