Vincent_van_Gogh

 人間はいつかは時間と空間を超越したいと考えている。ドラえもんの「どこでもドア」は空間移動に時間を要しないし、映画「バック・ツー・フューチャー」のようなタイムスリップの物語も数知れず、コロナ禍で身動きが取れない中、その欲望はさらに強まりそうです。

 南米ペルーの秘境マチュピチュの遺跡を訪れることは世界中の人にとって容易なことではありません。ルーヴル美術館を本格的に回ろうと思ったら何日も掛かります。ダヴィンチの「モナリザ」の絵の裏側はどうなっているのか見ることはほとんど不可能です。

 これまで歴史的文化遺跡や美術館は、デジタル化の流れの中でその場をヴァーチャルに自由に歩ける工夫がされ、単に押し付けの映像紹介でなく、まるで自分の足で歩いているように自分の意志で映像を動かすような仕掛けも工夫されるようになりました。詳しい作品説明、作家のプロフィールから、表面的ではない深い体験も可能です。

 例えば、2015年に公開されたGoogleが世界中の芸術作品を集めたギャラリーアプリ「Arts & Culture」が進化し、世界に散在する巨匠の作品を芸術家ごとに検索したり、テーマや色ごとに検索し、画面に一同に並べることも自宅でできるようになりました。

 世界中の有名な美術館を訪れ、ヴァーチャル体験するだけでなく、紀元前からの人間の文化の営みをバーチャル空間で俯瞰することもできます。アプリを起動するとホーム画面はデフォルト状態で「芸術」「歴史」「史跡」タブがあり、そこから自分に関心のある画面に移動できます。

 美術館ではGoogle360°ストリートビューを使って館内を自由に移動し、作品に近づくこともできます。実際に美術館に行っても難しい、絵の細部に近づくこともできます。今後、VRや5Gの高画質が普及すれば、リアル感はさらに増すでしょう。

 昔、広告業界に信じられないような才能を持つ人物がいて、海外取材で撮る絵柄を実際に鉛筆で描いて見せて指示する人がいました。彼の頭の中には世界の名所旧跡が映像として頭の記憶されており、いつでも絵にすることができる信じられない人物でしたが、今はスマホで簡単にその現場を探索できるようになったわけです。

 美術館だけなら、ヴァーチャルミュージアムというウエブサイトがあります。世界中のミュージアムを訪れることができます。自宅待機の子供たちと世界中の美術館を訪れる家庭も増えているでしょう。

 数年前、イタリア・フィレンツェで日本人十数人のグループ旅行者に出会いました。「今どこに行ってきたんですか」と聞いたら「覚えていない」といい、「これから、どこに行くんですか」と聞いたら、「さあ」という答えが返ってきました。実際に高額の旅行代金を払っても文化は身近にはなっていないといういい例です。

 でも、子供時からヴァーチャルで美術館や遺跡体験していると、実際に行った時の感動はひとしおでしょう。今はベルリンフィルなどの名コンサートも高音質でヴァーチャル体験できます。有料、無料の様々なサービスが次々に登場し、デジタル化で時間、空間を超える体験が増えています。

 無論、これは視覚、聴覚を中心とした話です。これだけでは人間の想像力を発達させるのは限界がありまする。例えば文学作品の映画化は難しいのと同じように文字の行間から人間が思い描く想像の世界はもっと豊かといわれています。デジタル化が文字離れに繋がるのも注意が必要です。

 いずれにしてもデジタル化で、世界中の豊かな文化が身近になるのは素晴らしいことです。自宅で免疫力を高める一助にもなっているでしょう。この分野は、この数年で飛躍的な発展を遂げてきましたが、まだまだ入り口の段階に過ぎないかもしれません。

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