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 コロナ禍で大手を含め、事業の先行きが見通せない企業は増える一方ですが、欧州連合(EU)は域外からの直接投資、とりわけ中国が欧州企業買収に乗り出すことを警戒しています。そのためEUは外資規制に本腰を入れる動きを強めています。

 EUがが守ろうとしているには、発電施設など重要インフラや国が守りたい高度な技術で、安全保障にも関係する重要産業です。規制強化に動いている背景には、世界への影響力を強める中国が経営に行き詰まった欧州企業の買収の機を伺っていることへの警戒感があります。

 欧州委員会のホーガン委員(通商担当)は4月の貿易相会合で「経済的な脆弱性は重要なインフラや技術の売却につながる」と警告、利益を出せず株価が下落し苦戦を強いられる企業に中国が食指を伸ばしていることに強い警戒感を示しました。

 実は、この数年、中国による高度な技術を持つ欧州企業の買収や加盟国の大型インフラプロジェクトへの中国の資本参加は問題視されています。キャメロン政権下で進められた中国企業とフランス電力による英ヒンクリー・ポイントの原発計画に同国の会計検査院がハイリスクを理由に異議を唱えたのは3年前のことでした。

 外資への懸念は中国に対してだけではありません。今や世界中が新型コロナウイルスのワクチン開発に凌ぎを削る中、アメリカのトランプ大統領がワクチン開発で有望なドイツのバイオ医薬品企業、キュアバックに多額の資金提供をする見返りにワクチン独占を画策した疑惑が3月に浮上し、EUは慌てて同社への8000万ユーロ(約92億円)の支援を決め、引き留めました。

 無論、最大の懸念は中国国営企業による買収です。すでに財政危機に陥ったギリシャは港湾施設や観光拠点の島などの中国による買収を許しています。イタリアは昨年、中国の広域経済圏構想の一帯一路への参加を受入れ、重要湾岸施設で巨額の融資を受けていますが、コロナ禍で苦しむイタリア企業が中国の買収標的になる可能性は極めて高いといえます。

 欧州委はコロナ危機を受け、戦略産業への潜在的リスクが高まっているという認識を示し、特に医療分野の域外からの直接投資の審査の厳格化を各国に通達しています。すでにドイツ政府がEU規制に基づく外資規制強化の法令改正を承認しています。

 中国に無防備だったイタリアも今回ばかりは買収制限強化に動いていますが、経済的打撃が大きいイタリアが中国資本をブロックできるかどうかは、EUの支援に掛かっているともいえます。欧州委員会は昨年来、域外からの直接投資の審査で加盟国間の情報共有、相互監視の新規則を導入しており、特に基幹産業、需要技術を守る動きを強めています。

 問題は、今回のコロナ禍で予想されるリーマンショックを超える世界的景気後退の中で、どこまで外資を規制して企業が持ちこたえられるかです。7人に1人が自動車産業で働くドイツでは、操業を停止していたフォルクスワーゲン社の小型車の生産ラインが稼働再開しましたが、輸出先が不況で買い手がない状況での不安を抱えています。

 今後、世界で倒産が相次ぐことが予想され、買収価格も下落し、外資による企業買収は活発化することも可能性も高まっています。特に政治と経済を分離しない中国が高度な技術取得や外交的メリットを理由に先進国の優良企業に対する買収攻勢を掛けてくる可能性は否定できません。

 コロナウイルスの発生源で世界拡散の原因を作った疑惑を持たれる中国を批判する声が高まる中、EUは過去のいかなる時代よりも中国への警戒感を強めています。欧州諸国の旧植民地を債務の罠に掛け、荒らした中国への苛立ちも高まる一方です。

 とはいえ背に腹は変えられない状況に追い込まれれば、中国資本選択も問題解決策として受け入れるしかない状況も考えられます。フランスでは経済とウイルス対策の葛藤の中、ポジティブなマクロン大統領と国家経済崩壊の危機を懸念するフィリップ首相の対立が伝えられています。今後、リスクを厳しく監視ながらも外資導入は避けられないと思われます。

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