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 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、すべての人に例外なく先行きが見通せない前代未聞の不確実性をもたらしています。中国では封鎖解除後の5月1日のメーデーからの5連休で1億人が移動したとされる一方、観光地は通常の半分程度で、未だ市民の恐怖心が消えていないことを物語っているようです。

 封鎖措置で大手、中小問わず、倒産や閉店に追い込まれるケースは数知れず、経営者だけでなく、失業する人々、失業のリスクを抱える人々を含め、先行きをまったく見通せない不確実な状況に不安や恐怖を抱える人は世界中にいるはずです。

 国民文化特性を指数化したことで知られるオランダの社会心理学者、ホフステード教授の6次元モデルの中に、不確実性の回避というのがあります。6つの次元の中には権力格差や個人主義か集団主義か、時間感覚などがありますが、それらは国民性として一般的にも指摘されるものです。しかし、不確実性の回避度は私にとっては最も興味深いカテゴリーです。

 まさに今の状況は、不確実性が全世界を覆い尽くし、様々な分野の世界中の専門家たちが、世界が新型ウイルスのために、過去にない大きな変化をもたらすと指摘しています。それも今のところ、どう変化するかを予想することさえできない状況です。

 この変化はリーマンショック以上の景気後退をもたらし、これまで努力して得てきた全てを失う恐れもあり、人々は萎縮し、精神を病み、ネガティブ志向が蔓延する恐れもあります。当然、免疫力も落ち、ウイルスに勝つことが困難にもなりかねません。それも家で一人で悶々としていたら、なおさらです。

 ホフステードの長年の調査研究では、アメリカ人や中国人、英国人は比較的に不確実な状態に強く、逆に日本人、フランス人、ドイツ人などは不確実な状況に弱いとされています。英国人がブレグジットで3年半も迷走したにも関わらず、失望せず、常に楽観的だったのは不確実な状況をあまりストレスに感じないという側面もあったと思われます。

 中国も今回、新型ウイルスの発生源となり、世界に先がけて感染拡大しましたが、自殺者が続出するようなことはありませんでした。血で血を洗うような闘いを繰り返し為政者が何度も変わってきた歴史を持つ中国では、不確実な状況への免疫力があるのかもしれません。

 日本人は不確実な状況に対する免疫力はあまりなく、極度の不安を感じ、海外旅行で現地でも買えるようなものまでスーツケースに詰め込み、ガイドブックを読み込み準備に余念がありません。これはドイツ人なども似ています。日本人は安心、安全が第1といわれ、裏を返せば不確実な状況に極度の不安感があるともいえます。

 とはいえ、世界中の誰もが先を見通せない状況に、何らかの不安を抱えているのは事実です。ウイルスは自然災害同様、人間が完全にコントロールすることは不可能です。仮にワクチンができても、そのウイルスが変異すればワクチンは効きません。次々に新型ウイルスが生まれるインフルエンザがそれを証明しています。

 今では世界の嫌われ者になっている日本から違法逃亡した日産のカルロス・ゴーン前会長は、逃亡先のレバノンでのインタビューで、かつて日産を建て直した英雄が犯罪者扱いにまで転落した状況に対して「人生、山あり谷あり」といいました。常人でないメンタルの強さを持つ同氏は落ち込む気配はありませんでした。

 世界的に知られるフランスのビジネススクール、INSEADの戦略論の専門家、ネイサン・ファー教授は、不確実性にはフラストレーションがつきものだが、不確実性に意味を与えることによって、それに対処できるようになるという対処法をハーバードビジネスレビューで取り上げています。

 行動科学の研究では、フレーミングと呼ばれ、不確実で絶望的状況を意味づけること(あるいはどう受け止めるか)は大きな助けになるというわけです。例えば、悲劇に見舞われても「もっとひどい状況に追い込まれた人もいる。自分はなんと恵まれているか」と思えば感謝の心が生まれてくるという具合です。

 「この試練は自分をさらに強靱にするためのものだ」と意味づければ対処の仕方も変わるということです。ファー教授は中でも不確実な状況の中にいる自分自身をヒーロー化することの有効性を説いています。逆境を乗り越えるのはヒーローだからです。

 旧約聖書に登場するモーセは、イスラエル民族を率いてエジプトを脱出し、砂漠を彷徨い、幾多の試練にも負けなかったヒーローです。歴史上、尊敬を集める人間は何人もいますが、自分とそのヒーローを重ね合わせることで、悲劇的状況を超えられるというわけです。つまり、自分に指針を与える師を持つことが重要だということです。

 しかし、私は、それにもう一つ付け加えるとすれば、クリエイティブマインドと人と喜びを共有することを挙げたいと思います。現状を破壊する自然災害や疫病は、実は新たな創造の機会を提供してくれます。私はもともと絵描きなので、例えばキャンパスに何時間も何日も掛けて描いた油絵を気に入らなければ、ナイフで削り取ったり、キャンパスを張り替えて描き直します。

 つまり、困難な状況は、よりクリエイティブな機会を与えてくれます。それだけでなく、その新たな創造の目的は喜びです。その喜びは自分だけのものではなく、より多くの人が喜んでくれた時に大きな力が生まれます。免疫力を高めたければクリエイティブであり続けることだと思っています。

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