mennecy cabinet
     メネシー市が導入したセルフサービス診療ブース (cVille de Mennecy)
  
 フランスで新型コロナウイルスで外出禁止制限措置が発令され、人と人との距離を取ることが迫られる中、最も懸念されたのが感染者急増による医療崩壊でした。そこで注目されるのが、最初の入り口である健康相談窓口にAIチャットボットを導入することや初期診療の無人化、遠隔治療などです。

 フランスでは新型コロナウイルス感染症の電話相談窓口「Allo Covid」が先月27日にサービスを開始しました。このサービスはAIチャットボットがオペレーターに代わって対応する全自動型サービスです。フランスでは私が口座を持つクレディ・アグリコールなど大手銀行は、すでに問い合わせ電話にチャットボットが導入されていますが、医療現場にも導入された形です。

 AIチャットボットのオペレーターは、症状や体温、年齢、身長、体重などについて質問し、その答えに応じて質問を変えながら、最終的に新型コロナウイルスの感染の可能性について判断を下し、「自宅待機」、「係りつけ医師の診断を受ける」、「救急ダイヤルに電話する」の3種類のアドバイスをします。

 15歳以上であればサービスを受けられ、5月11日の外出制限緩和後には「感染の疑いが高いので、検査センターに行ってください」というアドバイスも加えられます。AIチャットボットは学習能力も高いので、時間と共に対応能力も向上すると言われています。窓口は同時に1000本の通話に対応できるとしています。

 フランスではネット上で、同様なサービスを行っていましたが、重篤化しやすい高齢者の中にインターネットが使えない、そもそも自宅にネット環境がない、スマホを持っていないなどの事情があり、最も彼らが慣れている電話相談の公設サービスが追加された形です。

 同サービスは、医学分野の公的研究機関INSERMとパリ大学医学部が、民間企業の仏国鉄(SNCF)のデジタルサービス子会社、ベンチャー企業のAllo-Mediaと協力して実現しました。ネットでの相談同様、「Allo Covid」で集められた情報は取得した郵便番号で居住場所を特定し、分析機関でクラスター早期発見にも役立つとしています。

 初期的診療について最近、パリ南郊外メネシー市が導入したのが、セルフサービス診療。コロナウイルスの院内感染を恐れる人が増える中、数年前から準備が進んでいたテクノロジーを前倒しで導入。患者が様々な検査装置が設置されたブースに入り、目の前の画像に現れた医師の指示に従い、体温、血圧、心拍数、酸素濃度などを計り、自分でカメラを用いて喉の奥を撮影したりする。

 そのデータを元に診断結果がブース内でプリントアウトされて出てくる仕組みで、最初から最後まで誰にも合わず、診療を受けることができます。医師も患者に接することでの感染リスクがなくなります。感染が疑われる人の来院は世界中で警戒されていますが、これなら安全というわけです。

 さらに医療崩壊を防ぐ手段の一つとして考えられているのが遠隔治療です。マクロン仏大統領は2017年の就任当初、遠隔診療、遠隔治療など新しいテクノロジーを使った医療体制の整備を公約に掲げていました。医師不足という背景もあり、2018年にはアプリなどでネットを使った診療でも保険が適用されるようになりました。

 無論、診察費に関する保険適応には課題が残っていますが、今回のコロナ禍で遠隔医療は加速しています。今後、5Gの普及で画像がより鮮明になることから、遠隔治療の正確さが増し、医療体制の地域差解消にも貢献が期待されています。

 今回の新型コロナウイルスへの医療対応は、様々なテクノロジーの導入が一挙に進んでいるように見えます。とにかく3つの密を避けるためには従来型の診療や治療では限界があります。この流れからすれば将来的には家庭が診療所になる可能性も視野に入れられているといわれます。

 フランスでは、アプリ上で診療を行う医者の数をさらに増やす方針で、家庭医も遠隔診療が行える体制を整える方向です。設備が充実すれば、新たなウイルスの感染症が発生した時にも、医師不足を補えるだけでなく、感染拡大の早期防止にも役立つ可能性があります。

ブログ内関連記事
緊急支援スピード対応に官僚の壁 政治決定を迅速に実行するシステム構築が急務では?
AIはコロナ危機をどう分析するのか 進取のIT業界の実力が思わぬところに生かされる期待感
フランスの健康危機対策プロトコル ホワイト・プラン、ブルー・プランの危機管理とは