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 最近、欧米メディアを中心にコロナ禍後の世界は今までとはまったく異なるだろうという予測や、ヘタをすれば世界秩序は大混乱の中で崩れ、あちこちで戦争が起きると指摘する専門家の声も出ています。特にコロナ禍ですべての国が重い債務を抱え、景気後退局面に入るのは確実なため、人間の醜い面が露出するかもしれません。

 それはどこに現れるかといえば、関係性、すなわち人間関係、企業間の関係、国家間の関係などです。旧約聖書によれば、人類は神の意思に反し、天まで届く巨大なバベルの塔を建設しようとして神の逆鱗に触れ、神は人間同士がコミュニケーションを取れないように言葉を分けたとあります。世界が多言語になった起源と信じられています。

 現代のバベルの塔は、ITや高度な翻訳機械を駆使してコミュニケーションギャップを乗り越え、生産拠点を拡散させ、過去にない地球規模で貿易を促進化し、世界的金融システムを構築したグローバリゼーションかもしれません。今度は新型コロナウイルスに襲われ、言語ではなく身体的距離を強いられ、人間が夢見た世界を一つにする理想郷は致命傷を負いました。

 創世記に出てくる話は、神の意志に反した理想郷を建設しようとしたという話ですが、その意味では神や宗教そのものを否定する共産主義も同じです。日本人の多くはキリスト教徒ではないので、覇権主義の中国が社会主義理想を掲げていても一党独裁の危険性は警戒するものの、宗教弾圧はそれほど気にしていません。

 キリスト教的価値観を共有してきた西洋諸国にとっては、共産主義や中国型、北朝鮮型の社会主義は、神が望まない危険なバベルの塔でしかありません。しかし、肝心の神側と自認するアメリカもマネーゲームとエンターテイメント、薬物に興じ、本来の禁欲的なキリスト教の価値観からはほど遠い状況です。

 そんなアメリカが牽引してきた自由市場主義のグローバリゼーションは、先進国内でも極端な貧困を生み出し、その貧困者たちを尻目に世界中で超富裕層が増え続けています。同時に、その状況を利用して着々と覇権を強める中国を育て、世界はアンバランスの危険水域に入ってしまいました。

 コロナショックは、その事態をアメリカが気づき、世界が警戒を始める中で起きたことです。グローバリゼーションは一見、これまで実現できなかった安定した世界秩序に貢献すると見られましたが、見せ掛けでしかなく、勝ち組と負け組をはっきりさせる危険な方向に暴走を続ける結果を産みました。

 実は私自身も15年以上前までは、グローバル化の信奉者でした。しかし、9・11テロ、リーマンショック、ギリシャの財政危機、テロとの闘いの中、グローバリゼーションの欠陥と脆弱さに気づきました。さらにその推進者の多くがリベラル派か金の亡者、偽善者という点にも注目するようになりました。

 今から20年前、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンの在パリのコラムニスト、故ウィリアム・ファフ氏とのインタビューで、しきりに先進国の巨大企業が途上国の安い賃金を利用し、その国の発展より搾取しているのは異常な状態だといっていたのを思い出します。

 コロナショック後の世界を地獄にしないためには、ビジネスも外交もグローバル化で鍛えられた異文化間のコミュニケーションスキルを生かすことが重要と私は考えています。文化が違えば考え方も違うのは当り前、その前提のもとに相手を尊重し共通の利益を探り、信頼関係を築き、対立ではなく、安定をもたらす努力が何よりも必要になるはずです。

 ある日本の保守系の医者は、今回のコロナ禍で日本や韓国の感染死者数が極端に少ないことについて、確かに数字のごまかしもあるでしょうが、その国の人間の免疫力の差を指摘しています。日本は移民の数も少なく、欧米に比べ、日常生活で常に身の危険から自分を守るために緊張し続ける必要がない分、免疫力が高いと指摘しています。

 私は日本人も常に空気を読み、欧米人より人間関係を気にしているという点や過重労働でストレスを抱えていると思いますが、身の危険を四六時中、心配する必要はありません。例えばフランスでは電車に乗ってもいかにスリに遭わないか、暴漢に襲われないかを気にする必要があり、リラックスはできません。

 多民族、多文化の国では、衛生観念が低く、危険な職場で働くマイノリティーが犠牲になっています。移民は愛国心も低いので国のルールになかなか従おうとしません。ユダヤ教やイスラム教は、そもそもその国の法律より、自分たちの教義を上と考えているので政府がコントロールするのは困難です。

 日本は多民族、多文化ではありませんが、この30年間で進んだグローバル化で多くのビジネスマンが異文化体験をしています。私は職業柄、グローバル人材育成に長年関わり、異文化間コミュニケーションのスキル向上にも努めてきました。

 コロナショック後の世界を考えると、国家主権の強化を含んだアイデンティティ強化が必要ですが、同時に異文化間コミュニケーションスキルが重要さを増すはずです。理由は対立や摩擦を回避するためにコミュニケーションの質を高める必要があるからです。今まで鍛えた異文化間のコミュニケーションスキルを役立て、世界が秩序を回復するよう努めるべきだと思います。

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