American flag coronavirus

 新型コロナウイルスによるアメリカの死者が5万8365人となった先月末、米ジョンズ・ホプキンス大学はベトナム戦争の時のアメリカ人犠牲者の数を超えたことを明らかにしました。無論、ベトナム人の犠牲者は当時、軍関係者120万人、民間人は200万〜300万人と推測され、今回の全世界の感染死者数23万人よりはるかに多いのも事実です。

 敵がいる戦争と違い、疫病は敵の見えない無差別攻撃です。国も人種も年齢も善人か悪人かも関係ありません。そのため、世界が結束しているともいえません。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員会委員長は先月16日、欧州議会でコロナ危機に最初に晒されたイタリアに対して、EUとして支援しなかったことを「全欧州を代表して心から謝罪する」と異例の謝罪演説を行いました。

 しかし、その後も加盟各国が感染拡大の脅威に晒され、他国を助ける余裕はなく、経済再建については話し合いでは、豊かで財政が健全なドイツやオランダなどのヨーロッパ北部と、債務危機が危ぶまれるイタリアやスペインなどの南部の対立が表面化し、結束できていないのが現状です。

 ですから、今回のコロナ禍でいえることの一つは、国際的協力が機能しなかったことです。人がこれだけ移動する世界でウイルスは人によって世界に拡散されました。われわれは公衆衛生の安全保障は国家しか頼りにならないことを痛いほど知り、他国は協力すらしない現実を見せつけられました。

 5月は、世界各国が感染ピークが過ぎたという認識で、第2波を警戒しつつもロックダウン(都市封鎖)の緩和が実行される月になりそうです。しかし、これだけ多くの犠牲を払った経験から、何かを本質的にわれわれが悟ったというレベルには到底達していないと私は感じています。

 グローバリゼーションを牽引してきた自由貿易は渡航禁止や国境閉鎖、医療物資の輸出制限などで貿易量は激減しました。中国の工場への過度の依存、サプライチェーンの寸断は、グローバリゼーションの脆弱性を露呈しました。医薬品の中国依存度の高さは今回の健康危機で批判の的になっています。

 これがベトナム戦争や対テロ戦争なら対立する敵味方は明快です。敵も味方も仲間と同盟を強化し、協力関係を重視しますが、今回のコロナ禍は対立が生んだものではありません。アメリカが今回、中国との対立関係を強めていますが、中国が意図的にウイルスをまき散らしたという証拠を見つけるのは難しいでしょう。

 東西冷戦後を襲ったタイのバーツや韓国のウォンの通貨危機、金融危機のリーマンショック、ギリシャの財政危機では、関係国が保護主義に走ることなく、国際通貨基金(IMF)などの国際機関も含め、協力強化によって切り抜けてきました。しかし、今回は全世界が同様な脅威に晒されているために協力や支援は機能していません。

 同時にアメリカは今、生産拠点を自国に戻す方が安全という考えが強まっています。トランプ大統領は国内雇用を生む千載一隅のチャンスと捉え、これまで異端とされたアンチ・グローバリゼーションの経済学者の意見に耳を貸そうとしています。

 しかし、もしアメリカが単純な国内回帰に走れば、世界経済は萎縮し、交易を通して紀元前から数千年に渡り、栄えてきた繁栄の経済理論は崩壊することになりかねません。正しい判断は国内生産は公衆衛生を含めた国の安全保障に関わる製品に限定し、同時に国外生産では中国への依存度を大幅に下げることです。

 もし、中国が世界支配を急ぐため、意図的にコロナウイルスを世界にばら蒔いたとすれば、それは失敗だったというしかありません。なぜなら中国への依存度が高すぎることに世界は気づかされ、工場撤退など中国への投資が激減する可能性があるからです。

 先行きが見えない長期戦覚悟のコロナ禍ですが、今後の世界のあり方、国のあり方について、ポピュリズムの感情に流されることなく、冷静になおかつゼロベースで議論し、前例にこだわらず、大胆な変更と改善を行うチャンスだと受け止めるべきでしょう。

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