leadership

 今回の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、放置されてきた様々な問題が浮き彫りになり、まるで江戸末期に黒船が到来したように、あるいは予測できない衝撃的出来事のブラックスワンが放たれたかのように、大きな試練の中にあります。

 金融システムを試すストレステストが形を変え、世界中に分け隔てなく試され、公衆衛生だけでなく、国民と政府の信頼関係、経済システム、意思決定のあり方、リーダーシップ、マネジメントが公的機関のみならず、民間企業でも大きなテストを受けている状況です。

 中でも危機に対して最も重要なのは、リーダーシップです。リーダーシップとマネジメントを混同する人もいますが、マネジメントはある目標を具体化するための適切な管理を行うことなのに対して、リーダーシップはヴィジョンを提示し、意思決定し、最初から最後まで一貫性を持って目標達成に全体を向かわせることです。

 特に危機に対しては、過酷な状況を乗り切り、人々を危機から救い出し、組織に活力を与え、鼓舞するのがリーダーに求められる要件です。そこには明確な思想と信念が必要です。しかし、ともすれば、重要なリーダーシップより、現実への対処に追われ、マネジメントの方に重心が移りがちです。

 安倍政権の対応が後手後手に回っている印象を与えているのは、もマネジメントが肥大化していることの現れです。もとも手段が目的化しやすい日本の文化風土は、細かいことが気になって肝心なことがおろそかになりがちです。75年間も戦争の有事から離れ、平和ボケしている日本は、無差別テロに近いコロナウイルスの襲来に、頭の中では経済ばかりを心配している状況です。

 まるで東西冷戦の時代に敗戦の教訓で作られた不戦の誓いを理由に、アメリカの核の後ろに隠れ、商売にいそしみ漁夫の利を得てきた習慣を、今も持ち続けているかのようです。そこには経済発展が全てという考えのみで、国家観や思想もそれを守ろうとする信念も本当は大してないように見受けられます。

 リスクマネジメントの基本原則は、最悪の事態を想定し、日頃から対応に関わるシミュレーションを徹底して行うことです。世界は確かに今回、想定をはるかに超えたウイルスの脅威に晒されています。しかし、日本はフランスのようにホワイトプランやブループランのような危機への備えはありませんでした。

 なのにフランスでは2万人を超える感染による死者を出しているじゃないかという人もいるでしょう。その最大の原因は世界保健機関(WHO)の不正確な政治的に操作された情報にあったといえます。人の移動の自由が国境を超えて行ってきたヨーロッパでは、初動の遅れは致命傷です。基幹産業の一つである観光でヨーロッパは大量の中国人旅行者を受け入れてきたのも仇になりました。

 危機が発生した後の対応として注意すべき点の一つは、リーダーは個別案件への対応に追われ、マネジメントに気を取られる傾向があることです。実際に医療崩壊を起こさないためには感染者数を増やさないための人と距離を取ることから、ベッド数や人工呼吸器の数の確保、PCR検査の促進など、多伎に渡ります。

 それぞれが組織的に動くしかない性格のもののため、リーダーは個別案件に振り回され、視野を狭めてしまうリスクがあります。これは戦争と同じで指揮官は、現場から一歩退いて全体を俯瞰しながら、優先順位を決める責任があります。時には部隊を見殺しにする判断も迫られます。

 対応が後手後手に回る印象を与えるのは、優先順位を決める思想がないからです。リーダーは危機的試練に対して、危機を押さえ込み、組織を目標に向かわせるための信念が必要です。国難ともなれば、どのような国をめざすのか明確な国家観が必要です。

 つまり、リスクマネジメントは短期に対処することではなく、危機の経験から学習し、組織の目標達成をさらに強靱にするものでなければなりません。言い換えれば、全体を俯瞰する視野の広さだけでなく、何年も先まで見通す長期的視点が必要です。

 誤解のないようにいえば、リーダーシップを発揮するというのは権力を集中させることという意味ではありません。中国の武漢の失敗は、恐らく権力を集中させすぎた独裁システムが原因だったと思われます。専門知識を持たないリーダーは方向づけをし、優先順位を決め、関係者が自発的に取り組める組織的秩序を構築することに専念すべきです。

 もう一つはリーダー自身が組織の役に立つための行動を常に意識していることです。上から命令するだけで実際に行動には関わらないと現場と遊離した決定を下す恐れがあります。学校の休校解除にあたり、首相や文科大臣が自ら学校に足を運び、教室の消毒や机の配置に関わってみれば、現実的でない判断は下さないはずです。

 日本の今回の危機対応が欧米と最も異なるのは、人間の扱いです。無症状の陽性者をホテルに隔離する措置で、非常に狭い部屋に2週間も閉じ込めるというのは、人間性を無視したやり方です。そのためホテルを選択せず、自宅に留まる人が圧倒的に多いといいますが当然です。リーダーは人間を人間として扱う意識がなければ、指導者としての資格はありません。

 この強烈なストレステストで、リーダーシップはどうあるべきか、本質的な改善がされれば、危機に強くなるだけでなく、国家も企業も強靱になるのは確実だと思います。

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