Black swan3

 30年に渡ってヨーロッパを見つづけてきた私にとって、今、目の前で展開していることは、見たこともない風景と言わざるを得ません。それは欧州連合(EU)加盟国間で、新型コロナウイルスの脅威に対して、これほどまでに協力関係が見られない事態はなかったからです。

 つい最近でいえば、ギリシャの財政危機に対して、ユーロの信頼回復のためにEUはギリシャ救済に必死になりました。イスラム過激派のテロの脅威に対してもテロリストの行動について情報を共有し、合同捜査を行い、いくつものテロ計画を事前に潰すことに成功しました。

 もともとはEUは、アメリカ、日本に対抗し、経済統合によってヨーロッパの世界に対するプレゼンスを高めるのが目的でした。そこからEUは旧中・東欧にまで拡大し、第2次世界大戦で東西に分断され、ロシアの脅威に晒されていた中・東欧を取り戻すことにも成功しました。

 しかし、敵を選ばない今回の正体不明の疫病は無差別攻撃を世界に浴びせ掛け、グローバル化の脆さが露呈し、EUも結束して対策に取り組む姿勢を打ち出せずにいます。イタリアでの感染拡大に隣国フランスは手を差し伸べず、公衆衛生対策は自国の問題と傍観しました。

 公衆衛生の専門家の医師でドイツの国防大臣だったフォンデアラエン欧州委員会委員長の初動の遅れは明らかで、EU域外からの入国者、域内の移動も放置した結果、EUとしての対策の遅れが11万人以上の死亡者数を出す惨状を産みました。

 イタリアに感染拡大が確認された2月、フランスではリヨンでサッカーの試合があり、イタリア人サポーター数千人が応援に来ていました。無症状感染者の人から人への感染が知られていない時期でした。在パリのイタリア人記者が「ウイルスは雲と同じで国境など簡単に乗り越える」と懸念の声をあげたのが忘れられません。

 イタリアで医療崩壊が始まった時に医療資材や専門家の医師をEU全体としてイタリアに大量投入することもありませんでした。人命に関わる安全保障という観点でEUは協力機能が働きませんでした。つまり、EU域内でも隣の国が助けてくれるということはないことを印象づけました。日頃、人権だ人命尊重だヒューマニズムを掲げるヨーロッパらしくない態度でした。

 戦争の時の安全保障は、北大西洋条約機構(NATO)などで備えはあっても、スペイン風邪の流行からたかが100年しか経っていないのに疫病には無防備でした。

 しかし、ここまでEU及びブレグジット中の英国を破壊した本当の原因は何だったのかが問題です。そこに今、欧州では大きな注目が集まっています。それが初動の遅れを招いた2つの要因です。

 一つは中国・武漢で発生した新型コロナウイルスについて、中国が昨年12月時点から情報隠蔽があったことです。すでに人から人への感染が確認されていたにも関わらず、世界に知らせなかったことで人の移動が放置されました。その後の情報提供でも正確なデータを世界が手にするのは困難でした。

 一党独裁という異常な政治体制を維持する中国の透明性のない超内向きの国で起きた疫病発生は、改めて共産党一党独裁体制が世界に不幸をまき散らしたことを印象づけました。ウイルス拡散が中国製による意図的なものであったかどうかは確認の取りようはありませんが、中華思想をベースにした覇権主義の中国型社会主義の正体が暴露された形です。

 もう一つは、その覇権主義の一環として途上国を借金漬けにする中国の債務トラップ戦略外交で国際機関もコントロールされていることです。特に世界保健機関(WHO)への中国の影響は多大なものがあり、中国への多額の債務を抱える「アフリカの中国」とまで呼ばれるエチオピア出身のテドロス事務局長は習近平国家主席のいいなりになっています。

 EUの初動の遅れの主因は、WHOの見解に100%従ったからでした。私はフランスにいて、これほどWHOを信じるのかと驚いたほどです。それも中国が背後で力を行使する実態など何も知らなかったのがヨーロッパです。テドロス氏は言い訳を繰り返していますが、極左政治家である彼の習近平に対する信頼は揺るぎないものがあります。

 アメリカのトランプ大統領がWHOへの拠出金を停止し、WHO改革を主張していますが、今ではフランスのマクロン大統領も同意しています。それに「中国のいうことをまともに信じるのは馬鹿だ」とまでいっています。これだけの犠牲者を出し、経済的ダメージはリーマンショック以上という状況の中、ブラックスワンと呼ばれるコロナの終息の先に見えるのは、世界vs中国の構図です。

 今後、中国、北朝鮮に残る一党独裁の異常体制を世界が許すのか、それともその中国に飲み込まれるのかの非常に危険な均衡ゲームが待ち受けているといえます。経済は政治とは別物などと呑気なことはいっていられない状況です。そんな中、経済優先しか頭にない日本はどうするのか。コロナ禍後の世界では根本的な国の姿勢が問われるのは間違いないと思います。

ブログ内関連記事
EU首脳らの悲観的危機表明 南北対立の表面化でEUは崩壊の危機に瀕している?
中国叩きで大統領選戦うトランプ 中国に異常に気を使う安倍政権の商人的八方美人政治は対照的
疫病で分かる世界の根深い対立 政治の不幸が人々を死に追いやる厳しい現実をどうするのか
武漢の研究所ウイルス流出疑惑 アメリカと距離を置く欧州の風向きが変わろうとしている