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 世界の耳目は新型コロナウイルスに集中しているために、今年最も注目すべき11月のアメリカ大統領選挙に対する関心は遠のいた感があります。地元アメリカでは、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)が「トランプ大統領再選の最善策は中国叩き」というオピニオン記事を掲載しています。

 その記事によると「ドナルド・トランプ大統領の再選につながる可能性が最も大きい道は、北京経由の道だ」と指摘しています。理由は世界最多の感染犠牲者を出すアメリカで国土の荒廃が現実化する中、国内問題では希望を与える材料が乏しいからです。

 WSJの「グローバルビュー」欄担当のコラムニスト、ウォルター・ラッセル・ミード氏によると、大統領選を「中国責任追及の国民投票」にすれば、大半のアメリカ国民から共感を得られる土壌ができているというのです。

 「新型コロナウイルスが武漢から噴き出され世界を震撼(しんかん)させる以前の2019年の段階でも、既にアメリカ国民の57%は中国政府に不快感を抱いていた。2020年2月のギャラップによる最新世論調査ではその割合は67%に達している」の指摘しています。

 さらに「アメリカ国民の中国政府に対する反感は、不信感どころではなくなっている。シンクタンクのピュー研究所が最近行った世論調査では、中国のパワーと影響力はアメリカにとっての主要な脅威と考えているのは共和党員の68%、民主党員の62%に上った」とあり、民主党員でさえ中国脅威論には過半数が支持を表明している。

 もう一つの理由は、そもそも前回の大統領選挙の序盤ではトランプ氏は共和党選出候補ではなく、独立候補でした。小泉元首相の言い方を借りれば「ホワイトハウスをぶち壊す」という政界エスタブリッシュメントの構築した伏魔殿を壊すことを公約したことで選ばれた経緯を指摘しています。

 そのトランプ氏の強みからいえば、今回の大統領選では「ビジネス界のエスタブリッシュメント層が長年、中国と親密な関係だったことで、トランプ氏は戦うべき相手ができた」というわけです。つまり、トランプ氏は、中国政府が米国との経済競争で、ずるいやり方をしてきたことを容認してきた政界エスタブリッシュメントと、生産拠点を中国に移してきた企業を「正す」使命を持つことになる。

 中国の知的財産の窃取やアメリカの大学やIT、金融業界への浸食を長い間黙認してきたエスタブリッシュメントの基本的考えは、経済発展すれば中国の民主化が進み、世界のルールを守るようになるというシナリオでした。蓋を開ければ世界を制覇し、ルールは中国が決めるというとんでもない戦略が見えてきたため、トランプ政権になって中国封じ込めに舵を切ったわけです。

 中国から生産拠点を引き揚げれば、アメリカ国内の雇用に繋がるわけですから歓迎しない国民はいません。グローバル化で起きた産業の国内空洞化を大きく修正できれば、置いてきぼりになったブルーカラーには朗報です。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、高まる中国の工場依存度のマイナス面が露呈した形で、工場引き揚げを企業に迫れば得点が稼げるというものです。

 無論、単純化しすぎるトランプ氏の反中強硬姿勢は、けっして専門家らを満足させるものではないし、特に欧州首脳は眉を潜める場面も多いわけですが、今回の新型コロナウイルスの中国が正確な情報を隠蔽した中国の責任追及では、欧州首脳もオーストラリア首相も支持しています。

 翻って日本の安倍政権は、中国責任追求に加担する可能性は限りなく低いのが現状です。もともと自らの正当性を証明するために敵を明確にするという発想がない日本は、とにかく敵を作らず八方美人的に立ち回るのが正しいという商人的態度です。特に戦後はそれ一色です。

 日本商工会議所の三村会頭はNHKの番組に出演し、日本の疫病対策について「他の国がロックダウンなど経済活動を止めて対処する中、日本は唯一経済とのバランスを保ちながら感染を抑え込んでおり、安倍政権の懸命な判断は高く評価されるだろう」と発言しました。裏を返せば安倍政権は経済界の言うことに従っているということです。

 しかし、世界が対中責任論モードに入る中、日本が中国に異常に気を使う態度をとり続ければ、東西冷戦で表面化しなかった日本に一貫した思想が存在しないことが暴露され、大きく信用を失うことになりかねません。対立する米中間の媒介になるのが日本の使命などと呑気なことはいっていられない状況に陥るかもしれません。

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