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 今、世界で供給が極端に不足しているのはマスクと言われています。マスクは医療用防護服など医療関係者だけが必要とするものでないため、今では巷では自家製マスクのオンパレードです。フランス人にはまったくマスクをする習慣がなかったので、全国民がマスクを必要とするとなれば供給が追いつかないのは当り前。

 数年前、日本でインフルエンザが猛威を振るう中、フランス人の友人が羽田空港に到着し、東京都内に入ると多くの通行人がマスクをしているのを見て、この国には恐ろしい疫病が蔓延し、多くの人が病人なんだと思い、戦慄が走ったと話していたのを思い出します。そのフランス人やイタリア人、ドイツ人がマスクを着用しているわけですからいかに世界の認識は変わったかということです。

 そもそも鼻の高い西洋人にはマスクは不向きで、フィット感を得ることや隙間をなくすためには東洋人とは異なる形状が求められます。政府が配布したアベノマスクを装着した在日の友人のフランス人は日本人妻と腹を抱えて可笑しくて死ぬほど笑ったそうです。

 まず、マスクの必要性が急増する状況の中、世界中の政府はマスク調達に奔走中です。英国では未だに中国に発注する状況に批判が集中し、政府は国内企業でマスク生産に協力する企業を募集したところ、8,000社も手を上げたそうです。経済先行き不透明な中、確実に政府が買い上げてくれるマスク生産は魅力がある話です。

 フランスでも最近も1,000万枚以上の中国製マスクが届いたのですが、不良品が多く、あちこちで批判されています。医療関係者や薬局では、ゴムがすぐ取れてしまうなど劣悪なマスクが手元に届き、不快感を露わにしています。今、中国では認可されていない基準を満たさないもぐりの業者がいい加減なマスクを生産しているというニュースが公共放送、フランス2で報道されました。

 実はフランス西部ブルターニュ地方には、マスクを生産してきた企業がありました。中国の台頭で経営が行き詰まり、ある企業が買収する時に政府は注文を約束したにも関わらず、実際には実行されず、数年前に倒産し、工場は閉鎖されました。この事実も政府批判に繋がっています。

 フランス西部アンジェにあるマスクの製造を行うコルミ・オペン社(カナダのメディコム社の子会社)の工場が、24時間稼働体制で作業員を追加雇用しても受注生産が追いつかないという話を今年2月のブログに書きました。年間1億7,000万枚以上のマスクを生産する同社は2月初旬時点で5億枚の注文を世界から受けているということでした。

 医療用マスクは日本でも年間13億枚必要とされているそうですから、人口半分のフランスで少なくとも病院関係だけで6億枚は必要ということです。これまでマスクの8割が中国と台湾から供給されており、例えばコルミ・オペン社の親会社が中国・武漢にも工場を持っているのが現状です。

 世界中のメーカーが中国でマスクを製造している構図なため、今も世界中に中国からマスクが供給されているわけですが、2月などは中国が輸出を止めたために一挙に供給量が下がってしまいました。マスクは中国が世界の工場として生産拠点の依存度が異常に高いことを見せつけた典型例です。

 これは日本でも未だに市場にマスクが流れていない根本的理由です。コルミ・オペン社に注文が集中したのは、同社では基本材料の調達から生産完了までフランス国内で自己完結しているからです。今は全ての製品がグローバル化で材料や部品調達のサプライチェーンが世界に拡がり複雑化しています。

 そのサプライチェーンが寸断されると途端に生産工程はストップし、製品は市場に供給されなくなります。今日本でもテレワークなどで需要が増しているパソコンの生産拠点が中国に集中しているため、供給が追いつかない状況です。スマートフォンも同様です。

 生産自体が単純で難しくないマスク、しかし人命に深く関わる製品が供給問題で中国依存度をなんとか終わらせようという動きは加速しています。この流れはもとには戻らないかもしれません。フランス人や英国人の怒りは「マスクさえも自分の国で作れないのか」というものです。

 中国は実は世界の工場を卒業して生産拠点依存度を下げ、最終需要依存度を高めているとはいえない状況です。そこに疫病危機で外資が撤退すれば中国経済はダメージを受けざるを得ないかもしれません。逆に自国に生産拠点を戻す動きは加速するでしょう。世界は疫病後にマスクがきっかけで過去にない変化をもたらすことが予見されます。

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