EU corruptionのコピー

 先週9日に開かれた欧州連合(EU)のユーロ圏財務相会合は長時間の議論の末、新型コロナウイルスの経済ダメージへの対応として、総額5,400億ユーロ(約64兆円)規模の対策で合意。一方、イタリアやスペインが要求している欧州共同債の通称、コロナ債については見送りになりました。

 今回の対策費の財源は、ユーロ圏の債務危機対策基金、欧州安定機構(ESM)の与信枠活用で各国を財政支援するのが柱。当然それだけでは足りないので、今回の決定以外にユーロ圏南部で悪評の財政赤字の上限を定めるルールを解除し、欧州中央銀行(ECB)は加盟国の国債に対する無制限の支援提供を表明し、ドイツを含む北部諸国はEU予算の拡大も容認の構えです。

 つまり、EUが一丸となって危機を克服すべきという認識に異論を唱えるEU首脳はいません。ところが新型コロナウイルスが他の欧州諸国に先がけて拡大し深刻なダメージを受けている欧州南部イタリア、スペインと経済優等生のドイツやその周辺国との対立が表面化し、EU存続に関わる事態に発展しそうです。

 イタリアやスペインが求めるコロナ債の導入については、ドイツやオランダが反対し、結論は今月23日開催のEU首脳会議に持ち越されました。合意できなかった理由は、巨額債務に苦しむイタリアやスペインがコロナ禍対策ではなく、債務軽減という別の目的に使う可能性が高いと懸念してのからです。

 アメリカに次ぐ19,500人が感染で死亡ているイタリアは、集中治療室に入る重篤患者数の増加率が減っているとして、10日に全国の封鎖措置を一部の店舗などで解除する一方、封鎖措置そのものは5月3日まで延長することを表明しています。つまり、3月9日に全土を封鎖し、日用品以外の生産活動停止を命じたイタリアは、2カ月弱の経済活動停止ということになります。

 同国のコンテ首相は、EUがコロナ債導入に消極的なことを批判し、9日の英BBCテレビのインタビューで「EUが十分な対策を講じなければ、(EU存続は)危険に晒される。そのリスクは本物だ」と不満を訴えました。医療崩壊と多数の死者を出しているイタリアやスペインの惨状が、ドイツやオランダに伝わっていないという不満が噴出しています。

 危機感という意味ではコンテ首相は「第2次世界大戦以降最大の試練」といっているだけでなく、ドイツのメルケル首相も同様の認識を示し、スペインのサンチェス首相は欧州にとって「第2次大戦以来最悪の危機」と呼び、ポルトガルのコスタ首相は「必要な措置を取らなければEUは終わりだ」と悲観論を展開、フランスのマクロン大統領も同様の警告を行っています。

 かつて欧州統合の牽引役として1985年から10年間、EUの欧州委員会を率いた90歳を超えたドロール元委員長は、EUの「生死にかかわる危険」な事態と警告を発しています。危機感は共有していますが、具体的経済対策では意見の対立が目立ち、特に優等生のドイツと欧州北部諸国は、ギリシャを含むラテン系の南部の国々への不信感を露わにし、亀裂が生じています。

 米ウォールストリートジャーナルは4月9日付けの記事で「欧州の古傷えぐるコロナウイルス」と題し、新型コロナウイルスがEU内の「債権国と債務国という、かつての色分けに沿って欧州を引き裂いている」と指摘しています。

 同紙は「EUの破綻を予言するのは、英国と米国にいる右派のEU懐疑派だったが、この数週間、欧州のエスタブリッシュメント(指導エリート層)の中枢からも悲観的な発言が出始めている」と指摘し、果たして今回の試練にEUは堪えられるのかと疑問を呈しています。

 EUは2008年のリーマンショックに続く2010年のギリシャ財政危機で、ポルトガル、スペイン、イタリアが財政破綻予備軍として懸念されました。実際、ギリシャ危機ではギリシャをEUから切り離す議論もありましたが、ドイツが中心となって巨額支援を実施しました。

 スペインやイタリアはなんとか自力で持ちこたえてきましたが、欧州北部からの支援も無視できません。にも関わらず、常に政治が不安定で経済が上向かない状況が続き、北欧系やドイツ系の北部欧州諸国はギリシャやラテン系のイタリア、スペインなどの南部諸国を軽蔑しています。

 英国が愛想を尽かしてEU離脱に走ったのも、南欧の経済運営への不信感が要因として挙げられています。今回のコロナ危機で、なんとか自力で苦境を脱することができそうな欧州北部のドイツとその周辺諸国からすれば、今回の危機で借金を重ねるとEU全体が回復不能な財政危機に陥るとの悲観論が出ています。

 席病対策の経済封鎖で補償に多額の財政出動を行っているEU加盟国の間に表面化した考え方の根本的違いは、EUにとって致命傷になりかねません。堅実なドイツでは自国内でのコロナ禍の経済被害が甚大なのに巨額債務を抱える不出来な南部諸国を支援することに対しては自国民の反発もあります。

 最近、仏独国境でドイツ人がフランス人に卵を投げたりして、嫌悪する現象が起きています。コロナ対策の遅れでコロナ感染者が急増させたフランス北部では、一部の重篤患者をドイツに搬送する事態になっており、迷惑と感じるドイツ人も増えています。

 コロナ対策ではEU加盟国の足並みは最初から揃っていません。シェンゲン協定のために協定国間では国境検問を行っておらず、域内の移動は自由なため、人から人に感染するコロナウイルスは、雲のように移動する(在仏イタリア人記者の言)ため、EU全体として対策をとらなかった3月上旬から感染者が急増しました。

 もし、世界保健機関(WHO)が中国・武漢から正確な治験を1月に得て、人から人に感染する性質の危険なウイルスと断定し、世界に警告していたら、EUは2月初旬には域外からの外来者を遮断し、今のような状況にはならなかったでしょう。今でもEUはコロナ対策で統一行動はとっていません。

 イタリアやスペイン国民は、北部諸国の緊急融資の条件を巡る要求を「冷たい」と受け止めており、ブレグジットで鎮静化していたEU離脱のドミノ現象や脱EUのポピュリズムが台頭し始めています。コロナ禍が長期化すれば、EU崩壊の悲観論は現実味を増す可能性は高いかもしれません。
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