WHO_HQ_main_building,_Geneva
    スイス・ジュネーブのWHO本部

 昨年春、中国が途上国に対して巨額の資金援助と引き換えに資源確保に動いている実態が明らかになり、問題視されました。現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」構想の裏に世界支配を狙う中国共産党の恐ろしい戦略があり、財政難に苦しむイタリアにもその手が及んでいるという話でした。

 今年は、このブログにも取り上げましたが、ハーバード・ビジネスレビューの調査で、途上国が抱える中国債務の実態が国際的にはふせられており、世界の金融動向を正確に判断できない状況に陥っている実態が明らかになりました。

 いわゆる途上国を借金漬けにする中国の債務外交です。それも無償や融資の利子軽減が常識なのに、市場並の利子でなおかつ担保貸しというヤクザのような手法で、途上国を窮地に追いやっているということです。

 今回、トランプ米大統領は、対中巨額債務を抱えるエチオピア出身の世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が中国のいいなりになり、世界をミスリードしたと批判しました。結果、パンデミックが起きた原因はWHOにあるとし、WHOの25%を占めるアメリカの分担金を払わないと圧力をかけています。

 WHOトップの前任者は中国人です。同じ国からの再任はできないルールなので、中国のいいなりになる債務国出身者で、なおかつ中国共産党の価値観を共有できる極左政党の属するテドロス氏が後任に任命されました。国際機関は今、過去にない政治色を帯びているといえるでしょう。

 問題になっているのは、国連を中心とした国際機関のトップの出身国です。たとえば国連事務総長は、国連の大国支配を避けるため小国から選ばれる慣例があります。ところが問題を抱える小国では民主主義は確立しておらず、腐敗度も高く、どんな立派な教育(アメリカの一流大学卒など)を受けた人物でも、出身国の文明度は大きく影響するものです。

 アジア人初の韓国出身の潘基文前事務総長は、歴代事務総長で最低の評価で終わりました。分断国家の苦痛を味わう国の出身者なので、世界の分断や対立状態に対して理解が深く、世界平和への貢献が期待されましたが、国連がめざす普遍性を体現する人物ではありませんでした。

 テドロス氏の場合も中国マネーに動かされているとすれば、世界の人々の命と健康に責任を持つ国際機関のトップとしてはふさわしくありません。私は個人的には、中国の操り人形に見えるテドロス氏は、自国を経済的に助けてくれている中国に逆らえないだけでなく、中国の政治的動機今も理解していないと見ています。彼の周りを囲む西洋人の感染症専門家も同じです。

 中国の一帯一路への参加に実質署名したイタリアや、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に欧州で真っ先に参加を表明した英国は、実は中国の正体を分かっていなかった。今、トランプ政権の登場でアメリカで中国の正体が明らかになる中、欧州もようやく中国への警戒感を強めていますが、それでも中国マネーに魅力を感じています。

 いずれにせよ、世界の現実からいえば、アメリカが主張するように国際社会に民主主義を持ち込むのは危険です。国連でどんな小国にも一票が与えられているのは美しい話ですが、その小国は大国の支援や庇護なしに存在できないことを考えると、大国間のパワーバランスに左右されざるを得ません。

 また、国際機関のトップに立つ人間が、自国を有利に導くことは避けられないという現実もあります。フランスはその典型で、とにかく国際機関のトップにフランス人を送り込むことに非常に熱心です。ラガルド欧州中央銀行総裁、アズレ国連教育科学文化機関(UNESCO)事務局長もフランス人です。ラガルド氏の前職は国際通貨基金(IMF)専務理事でした。

 通常、国際機関のトップは当然ながら高学歴で、それなりの国際的キャリアの持ち主です。しかし、それは知能の分野の話で、同時に人間性も大いに関係し、さらには出身国がどのような国かも関係します。人間ですからいかんともしがたいものです。

 そこに今度は国際機関のトップに送り込んだ国の外交戦略が影響を与えます。一昨年、国際刑事警察機構(ICPO)の中国人の孟宏偉総裁が中国当局に身柄を拘束されました。中国にとって何より大事なのは中国の法律と、支配政党・中国共産党の規則にあることを露骨に表したものでしたが、中国共産党にとって孟氏の利用価値がなくなったことを示すものでした。

 世界は公正さや平等という理想主義とはほど遠い現実があり、それを知る欧州は国連を駆け引きの場と心得て動いています。アメリカは距離を置いたままです。いずれにせよ国際機関を自国の利益追求のために利用しようというのは国際常識です。

 日本政府がIMFの低所得国債務救済のため大災害抑制・救済基金への資金拠出する方針を表明したそうですが、中国の借金漬けになっている国々は、その金を新型コロナウイルスの経済対策に使うより、中国に借りた金を返すことに使われるリスクもあります。国際社会での評価を上げる目的もあるのでしょうが、世界はもっとドロドロしているのが現実です。

 今回のWHO問題は、国際機関のトップを決める難しさと、覇権主義の中国の脅威が深刻化していることを知らしめるものでした。そんな国際機関に入り、多額の分担金を払うことに疑問を感じる国は少なくないでしょう。実際、WHOからはね除けられ、データ提供も受けていない台湾はウイルス対策で善戦し、高い評価を受けています。

 国際機関が信用を失い、加盟国に不信感が醸成されることは、日本のように国連を頼みにする国にとっては大きなダメージです。だからこそ、国際機関のトップを決める方法について再考が迫られているといえそうです。

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