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 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で、誰が得をするかが、ウイルスをまき散らした犯人探しの有力な手がかりといわれています。その意味で、テレワーク、買い物、動画配信、ゲーム、遠隔医療などで利用が急増しているインターネットのブロードバンド需要が急拡大で、高速無線通信の5G需要に関わるビジネスは大盛況です。

 第5世代移動通信システム(5G)の本格導入と新型コロナウイルスのパンデミックは皮肉にも車の両輪のごとく加速しています。米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、社説で「パンデミック時に朗報、ネット高速化へ」の記事を掲載し、アメリカが通信分野で自由競争を認めたことが功を奏したと指摘しています。

 逆にインターネット分野で規制を強化した欧州連合(EU)では、パンデミックによるインターネット利用激増でネット崩壊が起きないよう管理されているため、スピードやストリーミングの質低下に苛立つ市民は非常に多いといえます。

 日本ではあまり報じられていないことですが、もともと欧州のネット環境はけっしていいとはいえず、外出制限例が出た時に、誰もが懸念したのは、自宅で、もしネットが使えなくなれば、テレビも見れず、頼りになるのはスマホだけということで、孤立感が高まることでした。

 事実、ネットのスピードダウンなどが起き、自宅待機の生命線ともいえるネット環境が不安定に陥っていることは、あまり日本では報じられていません。WSJは「欧州の監督当局はブロードバンド事業者を公共事業者のように扱っている」ことが裏目に出ていると指摘しています。

 加えて英国では、中国から5G を導入している現実があり、5Gが英国にウイルスを拡散させているという信じがたいフェイクニュースが流れ、何塔もの5Gの電波塔が英国全土で放火され、医療活動にも支障が出ており、政府は対応に追われています。

 一方、アメリカは、公共管理の好きなバラク・オバマ政権時代のEUに似た「ネット中立性」(インターネットのコンテンツを平等に扱うようにする規則)が「現在でも残っていれば、現在のパンデミックの中、自宅で働く米国人の環境はもっと悪くなっていただろう」と指摘しています。

 現在のアメリカは確かに、さらなる規制撤廃でネット利用の利便性を一挙に拡大する方向に動いています。米連邦通信委員会(FCC)のアジト・パイ委員長は今月1日「ミッドバンドの6ギガヘルツ(6GHz)周波数帯のうち1200メガヘルツ分を、免許不要の用途に使用可能とすることを提案した」と報じています。

 「これにより、Wi-Fiの通信容量は事実上5倍に拡大し、高速化はもちろんのこと、スマート家電などの相互運用可能な5G機器の利用拡大も可能になり、米国民がネット上でできることが増える」としています。アメリカでは都市のロックダウンで、モバイル通信機器による通話が40%増加し、Wi-Fiによる通話は倍になったといいます。

 パンデミックのコロナ禍で加速するテレワークやネットショッピング、動画視聴、ネットゲームの急増は、感染拡大が終息したとしても、働き方や生活の仕方が大きく変化するだろうといわれており、コロナショックは皮肉にも5G業界には朗報になっています。

 5Gは人工知能(AI)、遠隔教育、遠隔医療分野に飛躍的進歩をもたらし、よりクリアな画像での遠隔授業が可能になり、これまで途上国向けに利用拡大してきた遠隔での外科手術の技術も加速することになります。皮肉にもパンデミックがその5G普及の追い風になっているというわけです。

 もっといえば、デジタル革命に消極的な人々に止めを刺したのが新型コロナウイルスだったと将来いわれるようなことが、今、起きているともいえます。無論、テクノロジーで危機を回避できたとはいえない現実もしっかり見ておく必要があるのも事実です。

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