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 私にとってテレワークは日常に存在してきた。なぜなら、国際的な距離が存在する仕事が多いからだ。企業で国際業務を担当する人間も電話、メール、テレビ会議などは日常のはず。だから、現在、新型コロナウイルスの猛威で在宅勤務を強いられる以前から、遠隔でチームで結果を出すことは新しいこととはいえません。

 興味深いのは、テレビ会議が物理的に集る会議以上に仕事の効率を上げる例もあるということ。実際、私は10年以上前に大手自動車メーカーの日本本社と欧州の支社を結んだテレビ会議に参加した時の内容を今でも鮮明に覚えている。理由はテレビ会議の方が、ある議題を議論する時に集中度が高かったからだ。

 集中できている理由は、映像の向うで話す人に対してその人が自分がいる空間にいないため変に空気を読む必要がなく、相手のいうことを理解することに集中できたからだと思います。日本人は本能的にその場の空気を読む習慣があり、その空気が読めない人間は極端な場合は排除されます。

 それでも最近は女性の参加者が増え、男だけの独特の空気が多少和らぎ、明らかにその場の男たちが作り出す空気は読んでいないと思われる女性の発言が、新鮮な空気を送り込んでいます。無論、時には驚きや違和感を感じる男性もいるはずですが。

 グローバルな多文化会議では、空気を読むのは無益なことなので、むしろ、互いがいったことの確認のためのフィードバックを丁寧に行うことや共感する作業が重要です。つまり、テレビ会議の利点は、異文化間のコミュニケーション同様、日本人同士でもコミュニケーションの精度を上げることに効果を上げ、より正確な相互理解に繋がる可能性があることです。

 日本人同士のコミュニケーションで結論を出すためには「場」が非常に重要です。実際に一つの部屋(場)に集まって議論する場合、結論を「落とし所」といいます。その場に参加した人間全員が、最大公約数で納得する「落とし所」を見つけるのが日本では意思決定に繋がります。

 ところが、テレビ会議では「落とし所」を探るのは困難です。共有する場は物理的にはなく、あるのはバーチャル空間です。空気を読むのも容易ではなく、日本人には不慣れな、より独立した個人が集る会議になる傾向があります。そこで各々の参加者のエンゲージメントを高めるためには技術が必要です。

 実はチーム心理には「責任の分散」というのがあります。よく綱引きに例えられますが、1対1の綱引きを5対5にした場合は、5倍以上のパフォーマンスは出せないという結果になるという話です。参会者の心理として「自分がやらなくても他の人がやれば全体として動いているように見える」という思いが働き、全員が100%の力を出さなくなる可能性があるということです。

 実際、テレビ会議では、プロジェクトに積極的に関わろうとする人と、そうでない人がいて、同じ空間にいないので、エンゲージメントを低下させる人が出てくる場合があります。逆にテレビ会議の方が一人一人の顔が個別に見えるのでコミットメントが高まる場合もあります。

 会議で成果を出すためには、いずれにせよ参加者の逃げ場を作らないことが重要です。そこで重要になるのが、個々人や小グループの役割の明確化です。役割は責任とつながり、責任は成果と評価にも繋がります。テレビ会議の時に個別の役割が明確化されれば、それぞれの専門性からの発言ができ、効果的です。

 もう一つは参会者全員の想像力をかき立て考えさせるストーリーライン(筋書き)を準備することです。山のように資料を見せるのは逆効果で、むしろ資料は単純化し、参加者全員の興味をかき立てるプレゼンを行い、自由に参加者が楽しみながら議論に入れる余地を作り、なおかつ結論を導き出すためのストーリーラインを用意することです。

 テレワークで生産性が落ちたという報告は、今回のコロナウイルス禍でよく聞く話ですが、同じ場にいないために集中力を保てない弊害もあります。中には部屋にいきなり小さな子が入って気を散らすなどということもあるでしょう。そのために時間を区切るとか、次のテーマに移るのに時間を空けないなどの工夫も必要です。

 テレビ会議のマネジメントで知恵を使えば、案外、会議で逃げ腰だったメンバーがエンゲージメントを高める効果を産み、チームの生産性を上げることに繋がる可能性もあります。仕事の進め方、働き方をリセットするチャンスと受けとめポジティブに取り組むことが重要でしょう。

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