america-china-commerce-commun

 アメリカの新型コロナウイルスの感染者数が中国を抜いたことで、トランプ政権が感染拡大の対策に失敗すれば、国際社会でのアメリカのプレゼンスが低下、逆に中国が浮上する可能性があると指摘する見方が出ています。つまり、危機を迅速に抑え込めるのは社会主義体制の独裁国家で自由主義は無力という話です。

 疫病の封じ込めだけでいえば、国民に対して強権を発することのできる独裁国家の方が有利かもしれません。しかし、中国の急成長を支えたのは自由貿易で、だからこそ世界の工場になり得たし、旧態依然とした管理社会の社会主義だけでは、経済成長は望めなかったことも確か。

 中国を知る専門家たちが共通する見解は、中華思想の影響です。彼らの原動力は中国を中心に地球が回るようになること、すなわち世界制覇であり、世界が中国にひれ伏す日を迎えることです。共産主義などのイデオロギーは、その目的を成就する手段でしかないということです。

 表向きは東西冷戦時代と同じように自由主義と社会主義のどちらに普遍性があるかの戦いのように見せかけていますが、覇権主義の中身は、本当は超内向きの漢民族の民族主義です。もっといえば、漢民族が権力を掌握することこそが全てといっても過言ではないということです。

 われわれ自由世界に生きる者が、コロナショックの封じ込めと引き換えに、そんな中華思想を受け入れるようになるなど分析するのは、とんでもない話です。日本は冷戦時代も本当の意味でイデオロギー対立の中身を理解していなかったと思われますが、自由主義と社会主義のどちらに普遍性があるかという戦いであって、米ソの単なる勢力争いではなかったということです。

 今、新型コロナウイルスを巡り、トランプ米大統領が「中国ウイルス」「武漢ウイルス」といったことを発端として米中対立が高まっていますが、実際、中国が初動を間違ったことがパンデミックを引き起こした最大の原因であることは明らかです。

 にもかかわらず、中国は感染押さえ込みを成功させた優等国で、やっぱり一党独裁の権威的政治システムは正しいなどと吹聴し、自由主義のアメリカは敗北し、今後世界へのプレゼンスが低下するなどという見方は、冷戦時代に意味も分からず、アメリカに追随してきた日本的見方というしかありません。

 一方、トランプ嫌いで知られる米ニューズウィーク誌は、アメリカで感染者数が中国を抜いた事実に対して、トランプ氏は、諸悪の根源は中国にあると主張することで、中国への怒りに火をつけ、アメリカ国民の不安やトランプ政権の対応に対する批判を交わす政治的狡猾さがあると茶化しています。これも中国の正体を知らない指摘です。

 無論、自由主義世界にも大いに問題はあります。個人の自由を最優先してきたことで、非常事態宣言や外出制限令が出されても、従わない人間はいます。日本に至っては国民に命令する法律も罰則もなく、ひたすら頼りになるには個人の良心です。

 日本人は真面目といっても、首相の妻がこの事態で集団で花見をする非常識も自由で良心がマヒしている証拠です。自由を支える良心は本来、宗教が担ってきたわけですが、それも日本だけでなく、ヨーロッパでも世俗化が行き過ぎ、まったく機能していません。

 人命よりも政治というのは愚かなことです。しかし、歴史は人命より政治で動いてきたのも事実です。世界的大恐慌に陥る可能性のある2020年、どのような政治体制が正しいかを議論する前に、産業革命以降を支配した拝金主義と科学至上主義、宗教の排除を見直し、リセットする方がはるかに重要だと思う今日この頃です。

ブログ内関連記事
人口呼吸器を若い患者に譲った神父 久しぶりに聞く「友のために命を捧げる」死に多くの人々が心を揺り動かされた
誰も見たことのない大都市の風景 お金が全てのGDP神話から目を覚ます年なのかもしれない
GDP日本悲観論は机上の空論 人間が体感する幸福度こそ正直な豊かさを表している
新型ウイルス猛威はブラックスワンなのか 投資家も逃げ場を失う金融危機の予兆は本当か