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 新型コロナウイルスの死者数で中国を上回っているイタリアで、72歳の神父が自分の人工呼吸器を若い患者に譲り、今月15日に死亡した訃報がソーシャルメディアなどで広く共有されています。新約聖書のヨハネによる福音書にある「友のために命を投げ出すほど大きい愛はない」を身を持って実践した行動に、イタリアだけでなく、世界中から賛辞が送られています。

 亡くなったジュゼッペ・ベラルデッリ神父は、イタリアで最も感染犠牲者が多い北部ロンバルディア州ベルガモ司教区に属するカスニーゴの町で司祭長を務めていた人物。呼吸器系の疾患を以前から抱える神父は、信者たちが購入してくれた人工呼吸器を所持していた。人工呼吸器が足らない現状に若い患者に使って欲しいと譲った後、ローヴェレの病院で亡くなった。

 最近は神父の信者に対する性的虐待などで、あまりいいイメージがなく、カトリック教会では多くの信者が教会を離れ、教会の建物そのものが売りに出されるほど、ヨーロッパでは衰退しています。今回の新型コロナウイルスのパンデミックでも、カトリック教会は無力と見られ、メディアは宗教的分析を避けています。

 そんな中、キリスト教の最も本質的な教えを身を持って実践した神父の行為は、多くの人々に感動を与えました。実はイタリアでは医療崩壊が進み、特に感染による死者が4,000人を超えるロンバルディア地方では、医師が治る見込みのない重篤患者には人工呼吸器をつけない「選別」が行われていることが報じられています。

 ベルガモの病院では「倫理的問題があることは承知している」と語る医師もいて、今やフランスやスペインなどでも同じ選別は行われています。そんな窮状の中、自ら犠牲を払う道を選んだ神父の行為に対して、ローマ・カトリックのフランシスコ教皇は24日、亡くなった医師や司祭のための祈りを先導し「病める者に尽くすことで英雄的な手本となったことを神に感謝」すると述べています。

 現在のイタリアでは、コロナウイルスの感染で死亡する人々には付き添いもなく、葬儀も行われていません。それだけでなく、イタリア北部では50人以上の神父が亡くなっている。高齢者の多い神父の死亡率は高いのが実情です。

 アメリカの3大ネットワークの一つCBSも訃報を報じ、シカゴのイタリア系の女性の親族が、ベラルデッリ神父にイタリアで世話になった話を紹介している。カトリック・イエズス会のアメリカ人神父ジェイムズ・マーティン司祭はツイッターで「友のために命を投げ出すほど大きい愛はない」という新約聖書のヨハネによる福音書の言葉を引用し、追悼の言葉を送っています。

 神父の死後、柩が外に運び出される時に外出を禁止されている市民が、窓から拍手を送ったことも伝えられました。ベラルデッリ神父を知る人は「とにかく全ての人の声に耳を傾け、助けようとした偉大な人だった」と証言し、47年間神父として務めを果たした最後は「汝、友のために死ねるか」を実践して、生きる手本を見せてくれました。
 
 見返りを一切望まない他者のための犠牲的行為は、今の世の中ではなかなかできることではありませんが、キリスト教の本質的教えを思い起こさせるだけでなく、死の恐怖に怯える多くの人々の心に染み渡る話だといえます。人は今、心に訴え懸ける話を飢えているように見えます。

 フランスでは、専門家の科学者会議が政府に対して、当初の2週間ではなく6週間の外出制限が必要との警戒を出し、政府は従う見通しです。多くの外出できない状況の中、心のケアは大きな課題です。誰も体験したことのない事態に直面し、人が何に価値を置いて生きているかが問われているともいえる状況です。

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