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 今や人類が経験したことのない地球規模での新型コロナウイルスのパンデミック。ニューヨークもパリもミラノも誰もいないゴーストタウンと化しています。ローマの時代から権力者と文明を証明してきた大都市は、大規模な戦時下で破壊や無人化を何度か経験していますが、戦時以外で高度に発達した大都市から長期に人が消えたのは初めて。

 この現象は、人命と経済活動停止という視点からネガティブに語られることがほとんどですが、中には海の上に浮くヴェニスの水が綺麗になり、水面から水底が見えるようになり、経済活動停止で温室効果ガスが大幅に削減され、2020年は二酸化炭素(CO2)排出量が前年を下回る予想も出ています。

 国際エネルギー機関(IEA)は2月11日、世界で2019年のCO2排出量が前年比横ばいの約333億トンだったと発表しました。横ばいは16年以来3年ぶりです。要因としては代替エネルギーの風力、太陽光発電の普及、石炭から天然ガスへの転換などが指摘されています。

 大工業都市、武漢に始まったコロナウイルスのパンデミックは、中国の大気汚染対策より経済活動優先、アメリカのパリ協定離脱、先進国がなかなか本腰を入れない温室効果ガス対策に業を煮やした過激な環境活動家が、生物テロとして武漢にウイルスをばら蒔いたという説まで飛び出しています。

 世界の経済活動を無理やり停止させ、機能不全に陥れるには最強の方法かもしれません。デジタル革命が起きているとはいえ、まだまだ人との接触なしに経済活動を行うことは困難な状況を考えると、疫病は圧倒的なパワー。今まで当り前だった経済活動を含めた日常は目の前から消え、不安と恐怖だけが拡がっています。

 18世紀中庸から始まった産業革命を支えたのは科学と工業化。多くの人々は農業などの第一次産業を離れ大都市に移動し、何よりもお金に依存するようになり、新興国も同じ運命を辿っています。20世紀の2つの大戦で中断された産業化は戦後、大量生産、大量消費時代を迎える一方、東西冷戦のイデオロギー時代を経験しました。

 冷戦の終結でイデオロギーの時代から経済の時代といわれ、1995年に大統領に就任したフランスのシラク大統領は翌年の新年恒例の世界に送り込む大使の集会で「あなた方の使命は、フランスのセールスマンになることだ」と宣言したのを思い出します。

 冷戦終結から30年、1にも2にも経済に集中し、世界中に多くのビリオネを産みながら、幸福をもたらすのはお金しかないとの妄想が完全に定着した30年でした。経済活動の効率化でグローバル化が進み、人間の生活を効率化する手段でしかなかったお金は、ギリシャの哲学者アリストテレスが予言した通り、目的になってしまいました。

 結果、勝ち組と負け組が色分けされ、グローバル化も壁にぶつかり、今はトランプ米大統領の登場とともに自国第一主義が主流となりつつありますが、脱グローバル化の流れですが、拝金主義に変わりはありません。

 そのもとで国家はCO2を輩出しながら、GDPの押し上げに専念し、その先頭を走るのはアメリカと中国ですが、この数年の気候変動で批判は強まっています。ただ、残念ながら、未だに地球温暖化の危機を警告する多くの活動家が政治イデオロギーと無縁でないため、科学的根拠も信頼されたいない側面もあります。

 いずれにせよ、コロナ・ショックは人命だけでなく、経済活動の停止をもたらし、株価も暴落し、われわれの生活そのものを脅かし、その被害対象に例外はないようです。同時に大都市の空気は澄み渡り、河川の汚染はなくなり、原発施設もフル稼働させる必要がない状況です。

 経済活動を停止せずに人命保護に対処するジレンマは、経済活動を促進しつつ環境を悪化させないというジレンマに似ています。疫病禍が通りすぎるのを待つしかない状況ですが、さらなる悪化や長期化が避けられないことを前提に、経済神話を抜け出す施策を考える時かもしれません。

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