transportation isolation system

 フランスや英国の日系企業に勤める友人の英国人やフランス人たちは、新型コロナウイルスへの会社の対応にイライラしています。理由は、これだけ危機的状況に陥っても従業員ではなく、ビジネス第1、組織第1の姿勢を変えていないことだといいます。無論、日本企業もその国の方針には従いますが、考え方の違いが浮き彫りになっています。

 すでに操業一時停止を決めた日系製造業は多いのですが、理由は移動の制限によるサプライチェーンや輸送の機能不全です。ナショナルスタッフが苛立つので従業員の健康より、ビジネスや組織を先に考えていることです。口の悪い古参の英国人は「さすが、負けると分かっていた戦争を国民を犠牲にしてやらせた日本だな」などといっています。

 無論、誤解もあるので彼らに説明はしていますが、「組織と個人の関係が日本は逆さま」という意見は彼らの中では優勢です。確かに東京電力は東日本大震災で破壊された福島原発施設に、被爆の危険を知りながら、正社員ではなく多数の派遣の作業員を送り込んだことを思い出したりします。

 フランスには命の危険が及ぶ可能性のある仕事は拒否できるという法律があり、拒否しても会社は解雇や降格、減給はできません。人権意識ともいえるもので当然の権利というところでしょう。無論、掟破りはどこの国にもあるので、拒否した社員を冷遇する経営者もいますが、大手はそれはできません。

 最近、フランスの保守系日刊紙、ル・フィガロに掲載された政治哲学者のジャン=ループ・ボナミー氏の論文で「かつて第三世界の一員だった韓国が、今ではフランスよりコロナウイルス対策を適切に行える先進国になった。対応ができていないフランスは途上国に成り下がった」と指摘しています。

 しかし、この指摘に東アジアの研究者から反発する意見も聞かれます。韓国は民族主義を掲げ、人道支援や難民受入れは日本同様、積極的とはいえません。中国同様、韓国は民族主義だから危機に強いかもしれないが尊敬はできないというものです。

 欧米諸国は弱者救済の精神で、移民・難民を大量に受入れ、そのために社会が混乱し、フランスでは政府の外出禁止令に従わないアラブ系移民が少なくないなどの現実もあります。そんな状況も覚悟の上で人道支援してきたヒューマニズムにヨーロッパ人は誇りを持っている面もあります。

 ただ、今回の新型コロナウイルスへの対応を見ると、誇れる人権重視を疑いたくなる側面もあります。すでに死者が中国を上回る4,000人に達したイタリアでは、医療現場が飽和状態に陥り、80歳以上で持病があり、呼吸器疾患に陥った患者より、治る可能性のある患者に優先的に治療を施す選別を行っています。

 フランスでも医者は、治る可能性が低い患者の治療は行うべきではないという医師は少なくなりません。高額な人工呼吸器を使うのは治る可能性がある患者だけというわけです。この話は別に新しい話とはいえません。実は私のフランス人の義父や義母が数年前に他界したときにも同じ理屈を目の前で体験しました。

 ブルターニュに住む、地味でごく普通だった義父や義母への医者の扱いを見て、日本人としては少々ショックを受けました。未だに残る階層社会の名残もあってか「治療を施しても対して長生きできない可能性が高いので、無駄な治療はしない」といわれた時、「そんな」と思いました。

 私自身、パリ郊外の病院に極度のめまいで救急車で搬送されたことがあり、収容しきれないため、私は病院の廊下で点滴を受けていました。何度も点滴の注射針が外れ、大きな声でも出さなければ放置されたままでした。翌朝、詳しい説明もなく帰宅を命じられました。フランス人の親族からは「フランスは野蛮な国だと思っただろう」といわれました。

 その意味ではボナミー氏がいうようにフランスは途上国に成り下がっているといわれても仕方がないのかもしれません。お金があれば、保険は効かないが高度な治療を迅速に受けられるパリのアメリカンホスピタルにいけばいいと外国人たちは考えています。

 日本のように延命のために過剰なまでの治療を施す国は、私の知る限り多くはありません。どの国も国家の医療財政は逼迫し、財政赤字を押し上げています。無駄な治療は行わないというのも合理性がありますが、これが人権やヒューマニズムの国といえるのかとも思います。

 感染者がヨーロッパでも最も多いイタリア北部ロンバルディア州のベルガモを取材した仏公共TVフランス2は「倫理上、正しいかどうかは別として、蘇生(そせい)措置は生存の可能性が高い患者を優先している」という医者の話を紹介しています。倫理などといっていられない状況が伺えますが、パンデミックで建前と現実のギャップは大きいといえます。

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