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 経済活動は人の心理を読み込むことにあると、よくいわれますが、先進国、途上国を問わず、新型コロナウイルス蔓延の緊急事態に生活の危機を感じ、トイレットペーパーやアルコール消毒液、果ては頭痛の痛み止めまで買いだめしようとスーパーに殺到する現象が起きています。

 店頭からトイレットペーパーやマスクが消えているのを見て「なんでそんなに買い占めるのか」と呆れながらも、自分も備えあれば憂いなしとばかりに、いつもは一つしか買わない物を3つは買ってしまう否定しがたい心理が働いてしまいます。結果、店頭から姿を消す商品が続出しています。

 これを経済用語で「合成の誤謬」と説明する専門家は少なくありません。一般的な説明は「ミクロの視点では合理的な行動であっても、それが合成されたマクロの世界では、必ずしも好ましくない結果が生じてしまう」ということです。

 トイレットペーパーがなくなるかもしれない危機感から買いだめに走るのは個人として合理的自己防衛手段として適切な行動です。しかし、結果として皆が同じことをするので、店頭からトイレットペーパが消え、危機感はさらに強まり、悪いサイクルに入ってしまう。

 実は今の健康危機に対する対策でもミクロ的には正しくともマクロ的には間違ってしまう(誤謬)ことも考えられます。ミクロ対策では、ウイルス感染拡大が生じた原因である海外からの入国を制限するとか、クラスターが起きやすい集会の禁止、自宅待機などなど、専門家の意見に従えば「隔離」がキーワードです。

 ところが、マクロとしては日頃、人間は接触が日常化し、経済活動だけでなく、人間関係を良好に保つために濃厚接触は是とされています。それを全て断ち切れば、経済は停止し弱小ビジネスは経営が行き詰まり、日常生活も危機に陥ります。戦時下で物が不足する時と同じ恐怖が拡がり、パニックを引き起こし、セキュリティ対策は逆効果を生む可能性もあります。

 東日本大震災では生き残ることができたのに、受けた被害の大きさに絶望し、自殺する牧畜経営者がいました。今回もウイルスに感染していないにも関わらず、経営に生き詰まり、自殺者が出る恐れもあります。それもパンデミックの犠牲者というかもしれません。

 つまり、専門家はあくまでミクロの視点でしか見れません。セキュリティ対策の目的は、単に個別のリスクを抑え、排除するだけでなく、全体を元の健全な日常も戻すことです。無論、疫病対策は専門家の意見が重視されて当然ですが、犠牲者を最小限に抑える一方で、さらなる社会的、国家的なカタストロフィーが起きないようにするマクロ、ここでは政治判断が必要です。

 専門家の弱みは、ミクロ的視点に陥り易いことです。逆に政治家はマクロ的視点に陥りやすく、個々の問題へのきめ細かな対策は苦手です。外出禁止、学校休校などマクロ的決定は得意ですが、そこで起きる個々の不都合と混乱のマイナス面に対する感性が希薄なのも特徴です。

 今、世界中に溢れる新型コロナウイルスの情報は過去にない量です。ところが結果的に多くの人が感染病に対する正しい知識を持てたかというと、むしろ「分らないことが分かった」ということだと思います。つまり、不安はいっこうに収まらず、政府の打ち出す対策にも不信感が拡がっています。

 もう一つ、このような状況で見られるのは集団心理です。「皆が買いだめに走っているのだから、彼らの行動は正しいはず、よくは分らないけど、買いだめしておこう」という心理です。これも世界中同じです。パニックを引き起こす典型的な人間心理です。

 われわれは、全てのことについて個人の見識だけで判断することは不可能です。特にデジタル革命で複雑化するビジネス界も日常生活も、便利とリスクが表裏一体となって、われわれに押し寄せています。グローバリズムで世界が一つになると思いきや、個人や集団、国家のとんでもない欲望と野心が行き交うことで、リスクは限りなく増大しました。

 結果的に政府は国を守ることに注力し、個人も無力ながら自分を守ることに必死な状態です。口では協調が重要といいながらも不信感も強まっています。無論、最大の敵はエゴイズムであり、その発展型の地域主義、血族主義、民族主義、国家主義です。

 本来は個人も集団も互いに人のために生きる精神が中心にあれば、リスクを心配することはないはずです。子供や高齢者、病人など弱者の世話する保育士や看護師が、集団感染の可能性が高いライブハウスに行く行為も弱者を扱う仕事の従事者としては考えものです。

 世界中に同じようなことが起きているのは残念なことですが、驚くべきは日本で、会社側が社員に向かって「感染すれば首だ」と脅す現象があることです。人あっての企業という考えの不在には背筋が寒くなります。経営者に会ってはいけない自己保身のエゴイズムです。

 あまり報道されていないようですが、日本にも似たような法律があるかどうかは分かりませんが、フランスには命の危険があると判断された場合、正当な理由として被雇用者は仕事を拒否できる法律があります。雇用者がこれに対して減給や降格、解雇することは禁じられています。

 東日本大震災で福島の原発事故が発生した時、エールフランスのパイロットとCAは、日本本土への着陸を拒否しました。それは働く者の正当な権利です。今回のような危機的状況では日本は今のところ感染封じ込めに成功しているように見えますが、世界中で国民性や価値観の違いが表面化しています。

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