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 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は16日、新型ウイルスのパンデミックに対して、EU域外からの不要不急の理由なしの入域を30日間禁じる方針を明らかにしました。印象としては遅きに失した感が強く、安全保障に対するEUの指導力が問われる形となりました。

 実際に入域制限を実施した場合、「渡航制限はまず30日間実施し、必要に応じて延長する可能性がある」とフォンデアライエン氏は述べています。範囲は人の移動の自由を保障するシェンゲン協定加盟26か国に加え、非加盟国のアイルランド、さらにはEU非加盟国のスイス、アイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタインにも要請する方針です。ただし、EU離脱の英国市民は対象に含まないとしています。

 しかし、中国武漢以上のスピードで感染者及び死者が拡大している欧州は、すでに全土の封鎖を行っているイタリアを初め、加盟各国が世界保健機関(WHO)のパンデミック宣言を受け、本腰で対策に乗り出していますが、急増現象は止まる気配がありません。

 3月初旬のヨーロッパは驚くほど危機感がなく、中国からの大量の観光客を受けいているにも関わらず、私の耳には「あれは東洋人にしか感染しないのではないか」というとんでもない驕りの発言が聞かれました。マスクはもとより、手洗いする習慣すらないヨーロッパ人は、たかをくくっていたのが現状です。

 春節でたとえばフランスにいる60万から70万人の華僑は、中国と行き来し、中国人の個人の旅行客の入国も放置されていました。イタリア北部で爆発的な感染拡大が確認された時期にもフランスではリヨンでサッカーの試合が行われ、イタリアから数千人のサポーターがやってきました。

 最も早く対策案を打ち出したのは英国ですが、すでにEUではありません。日本同様の島国なので水際対策も容易です。無論、英国はヨーロッパの大国の中では1,000人あたりの病床数も医師の数も最も低いので、重篤患者が急増した場合、対応に問題が出てくる可能性はあります。

 イタリアの致死率が中国を上回っている理由の一つは、ヨーロッパでは日本に次いで高齢化率が高いことです。1,000人当たりの医師の数は欧州内では4人と平均以上ですが、病床数はフランスの半分の3.3床です。日本の13.1床とは比較になりません。

 私の個人的経験からも病気になっても、ヨーロッパではなかなか入院はさせてくれません。高齢者でも高度な医療機器が必要でない限り、自宅にいるしかありません。医療費が無料の国は多いのですが、近所のクリニックの主治医から、大規模病院に辿り着くのは大変です。血液検査も頻繁にはせず、CTやMRI検査を受けるのは何カ月待ちです。

 高齢化が進むヨーロッパでは、高齢者の重篤化が特徴の新型コロナウイルスの場合、医療崩壊する可能性は非常に高いといえます。特にピークを過ぎたといわれる中国で猛威を振るった新型コロナウイルスはヨーロッパで変異したとの見方もあり、感染力が強くなっているというのも心配です。

 経済優先でヨーロッパの統合・拡大を進めてきたEUは、経済効率を最優先し、特に人と物の移動の自由の保障は、単一通貨導入と並ぶ柱です。物流の効率化で経済は活性化し、大きな成果を上げていますが、危機に際して国防の要となる国境が管理されない状況は大きなリスクです。

 アメリカの様な合衆国であれば、大統領がヨーロッパからの入国を国家として禁止することは政策として可能ですが、ヨーロッパは加盟各国の合意でしか物事を動かすことができない仕組みです。過去には2015年にフランスで起きた同時テロなどでテロリストが一旦域内に入ってくれば、移動は自由なことが問題になりました。

 今回も人の移動を止められなかったことが感染拡大を阻止できなかった原因の一つです。加盟国間の国境封鎖より先に、とにかく域内への外国入域者を遮断するのが疫病対策のプロトコルとしては先だったにも関わらず、欧州委員会はアクションを起しませんでした。

 その意味で、いずれフォンデアライエン欧州委員長の指導力が問われることになるかもしれません。それも彼女はドイツの国防大臣経験者です。各国首脳以上にEUの中心部で危機感を持つべきだったという批判も出ています。