Global risk management 1

 世界中の指導者が新型コロナウイルスの猛威の中、疫病対策と経済減速の最小化のバランスをどう調整するかで苦戦しています。現在、世界で中国に次ぐ2番目の感染国のイタリアのコンテ首相は、感染拡大が顕著な北部だけでなく、全土を封鎖する過去にない世界唯一の決断をした国のリーダーになりました。

 習近平国家主席以上の強権発動という人もいますが、実はイタリア国民はそうは受け止めていません。なぜなら、法学者の彼は北部封鎖に踏み切るときでさえ「このような法案に署名する私はトロキストではない」といいました。つまり革命のために絶対権限を行使する独裁者ではないといったのです。

 社会主義独裁国家の中国の習近平主席でさえ、国土全体の封鎖はしなかったわけですから、自分がやろうしてしていることを自覚していたのでしょう。国防に関わる非常事態の危機管理は、人権に関わる問題で民主主義体制下では慎重に扱われるべき難しい問題です。

 日本以外の国は防疫対策でも軍が出動するのが常です。一定の秩序を保つためには軍による制圧も必要だからです。9・11の時は、その後のテロ阻止のために警察や軍が個人情報にアクセスし、プライバーや人権問題が議論になりましたが、疫病対策を含め、個人の人権と多くの人々を犠牲にするテロや疫病封じ込めの間でバランスを取るのは非常に難しい問題です。

 通常、多くの国では国家を揺るがす非常事態では、リーダーの意思決定が最も需要です。専門家など関係者の意見を聞いたとしても、最後に決断するのは一人のトップです。ところが日本は勝ち目のない対米戦争で意思決定を下したリーダーシップのトラウマもあり、特に国家権力へのアレルギーは他の国はないものがあります。

 さらに「落とし所」という日本独特の意思決定の慣習も重なり、トップ1個人が下す決定に対しての警戒感は非常に強いものがあります。ところが有事を含む非常事態では、権限と意思決定プロセスは極めて重要です。日本人の中にはSARSの時もそうだったが、日本は世界で最も疫病対策が成功しているなどいう人がいます。

 今回も世界的に見れば感染者が少ないので、日本は危機管理に強いというかもしれません。本当にそうなのでしょうか。実はリスクマネジメントには2つの側面があります。1つはいうまでもなくリーダーシップですが、もう一つは実行力です。真面目で従順な日本人は目上の人にいわれば、ほとんどの人は当然のように従い、それも厳密に守る国民性があります。

 非常事態宣言を出して軍の兵士が警備するのは、店の略奪や空き巣、ひいては暴動を防ぐためです。日本では、そんなことは起きないので、自衛隊や警察の出動は最小限で済んでいます。たとえばフランスで有名な青空市場が今、出店禁止ですが、出店すれば罰金を払うことになっています。

 罰則なしの禁止命令は効果が薄いというのが普通の国の考え方です。つまり性悪説を前提に法整備され、リスクマネジメントが行われています。ところが日本では罰則がなくても、真面目にほとんどの人は守るというわけです。さらに守らなかった人に対する社会敵バッシングもあるので、それが自然発生的罰則になっています。

 つまり、海外から見れば、日本はリスクマネジメントにおいても、誰が責任をとるか大したリーダーシップはない一方、国民の真面目さによる実行力が素晴らしいので、成果を出しているといえます。ということは意思決定を明確にできるリーダーシップが加われば、もっと成果を出せるということです。

 実はリーダーシップで最も重要なのは、明確なヴィジョンや目標を示し、それを守り続けることです。非常事態の防疫対策でいえば、国民の犠牲者を最小限に押さえ込み、迅速に元の安心して暮らせる日常に戻すことです。その目標がしっかりしていれば、様々な創意工夫も生まれてくるはずです。

 私の印象では春のセンバツ高校野球の中止決定の背景には、感染者が出た場合の責任問題や、試合中止を決めているプロ野球やサッカーへの配慮、安倍政権への斟酌があったことが想像されます。つまり、目標よりも手段に目が行き、周囲を気にする日本文化が濃厚だということです。

 ヴィジョンや目標さえ明確であれば、いくらでも方法はあり、創意工夫で乗り越えて行けるはずです。それを示すのがリーダーとして、まずやることです。それに有事の場合は、リーダーの決断にとやかく文句をいっている暇はありません。東日本大震災の大山小学校のように校長と教頭がもめたためにほとんどの生徒も教員も犠牲になりました。

 落とし所を模索する暇がないのが非常事態の危機管理です。むしろ決断力や意思決定の権限を明確にしていなければ、さらにリスクは大きくなるということです。

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