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 今から20年以上前、英国の少子化対策を取材しことがあります。フランスの場合は家族政策は人口政策でもあること露骨にいっていますが、英国の役人にその話をすると、いきなり怒りだし「人口政策などとんでもない」といい、私の質問を不謹慎だといわんばかりでした。

 その話をフランスに戻って、社会保障に詳しいフランス人のジャーナリストに話したら「英国人は女性が子供を産むか産まないかを政府がコントロールするのは人権侵害という建前があるから、そんなことをいっているだけで、本音をいわないのが英国人らしい」といい、「本当は英国でも少子化は深刻な問題なんだ」といっていたのを思い出します。

 一見、その少子化対策と関係なさそうなことですが、最近、日本でも選択的夫婦別姓が議論されています。夫婦別姓推進論者の中には、伝統的家父長制度を男性支配・女性隷属と決めつけるフェミニストも少なくありません。一方、夫婦同姓論者には日本に残る「家」制度の伝統主義者が多く、両者が折り合うことはありません。

 その点、英国国教会が主要宗教の英国にも、家文化とは異なる家父長制度が存在し、宗教的に男性優位の社会慣習があったわけですが、とにかく国王が女性という事情からは日本ほどの男性中心社会ではないのも事実です。

 そこでこの夫婦別姓を制度面からもゼロベースでリセットしているのが英国です。英国では現在、婚姻に関する法的書類に旧姓を書く欄も既婚を表す「Mrs」を書く欄もありません。伝統的に夫の姓に変えることも、自分の旧姓を維持することも、あるいは夫の姓の後に並列することやミドルネームとし旧姓を加えることも、さらには新しい姓を作るのも自由です。

 ゼロベースと書いたのは伝統破壊をめざすリベラル思想による「選択の自由の権利」を全面的に支持しているわけではなく、基本的に結婚のコンセプトを独立した個々人の契約に基づくものとし、個人が多様な選択ができるようにしている点にあります。

 そうすることで英国内に存在する多様な宗教や考え方にも配慮し、普遍性を持たせているのも事実です。ただ、英国は、そもそも姓あるいは氏に関する法的規定を婚姻に設けていないので、驚くことに子供はまったく別の姓を名乗ることもできます。

 これだけ婚姻で幅広い選択肢を設けているにも関わらず、10年前の調査では70%の女性が夫の名前に変えており、逆は3%に過ぎなかったという統計もあります。今、姓を変えない、あるいは夫の姓と旧姓を並べる女性は増えているとはいえ、マジョリティからはほど遠い状況です。

 実は私のフランス人妻のパスポートを見ると、旧姓が最初に記され、その後に私の妻という意味で私の姓が記されています。つまり、フランスの行政では、妻は一生、旧姓を抱えて生きていくようになっているわけです。

 英国でのもう一つの新たな動きは、昨年12月から同性愛カップにだけ認められていた婚姻しなくても婚姻者同様の法的利益を得られる「市民パートナーシップ制度」が、異性カップルにも適応されるようになったことです。事実婚の同性カップルに認められた権利を公平性を保つために異性カップルにも拡げたわけです。

 では、誰が夫婦別姓や婚姻を避けた市民パートナーシップ制度を利用しているかといえば、この制度を利用する私の知人の英国人女性は「結婚は男性優位で女性を所有物とした伝統的な男女の役割に根ざした制度というイメージが強かったから」と述べています。つまりフェミニスト的な考えの持ち主です。

 一方、夫婦同姓の筆者の友人でロンドン北部の公立高校の教師をしているバーバラは「既存の婚姻制度にこびりついた男女不平等は制度が問題ではなく、男女の意識の問題。たとえば夫婦別姓のカップルでも夫による妻への暴力(DV)は起きている。夫婦の男女間の役割への意識は制度で変えられるわけではない」と主張しています。

 ヨーロッパを30年以上取材してきた私は、平等社会をめざす欧州各国(特に旧西側諸国)では、今まで光が当たらず、宗教的理由から差別を受けてきたマイノリティーの人々の権利を擁護する法改正や新法成立を次々と繰り返してきたわけですが、それが財政負担になり、逆戻りできない状態に陥っている実情もよく目にします。

 結婚形態の多様化を認めている背景には、どんな形態にせよ、子供を産んで欲しいという国の本音も見え隠れします。確実に進む欧州連合(EU)の人口減少は深刻で、少子化対策で成功し礼賛されたフランスも出生率は落ちています。理由は子供を産む世代の女性人口がピークを過ぎたからです。

 ただ、社会的弱者と言われる性的マイノリティ(LGBT)や夫婦別姓支持派、市民パートナーシップ制度の利用者は、社会の主流ではありえず、単に差別されてきた人々に政府が権利を与えたに過ぎないと多くの人々が考えていることも事実です。

 キリスト教の土台のない日本からは、西洋の伝統保守とリベラルの対立の構図は見えにくいのですが、実際には婚姻時に夫の姓に変えて一体感を高めることを当然と考えるEU市民がマジョリティであるのも事実です。

 特に後からEUに加わった旧東欧の人々は、極端な伝統破壊のリベラルズムの共産主義を経験しているからこそ、旧西側の英国、フランス、ドイツ、スペインなどに蔓延する「何でもありのリベラリズム」への警戒感は強く、伝統的家族制度を守ろうと必死になっています。

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