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 毎回、アメリカの大統領選挙は世界的な注目度が高いといわれていますが、イランの総選挙を見ても分かるようにイラン国民は自国の選挙より、アメリカの大統領選挙の方に興味を持っているようです。理由はトランプ大統領の出現で、アメリカの世界的プレゼンスが高まり、善くも悪くもアメリカは世界に直接的影響を与えているからです。

 米中貿易戦争の最中にある中国は戦々恐々としてアメリカ大統領選を見守っているはずですし、北朝鮮も同様でしょう。トランプ嫌いの欧州諸国は関税圧力や北大西洋条約機構(NATO)の加盟国負担で関心が高く、中東でのアメリカの存在感は高まる一方です。トランプ政権と良好な関係にある日本も米民主党が政権を握れば先行きはどうなるか分かりません。

 そんな中、米ハリウッド映画産業では政治的に異色の存在である俳優・監督で高い評価を得ているクリント・イーストウッド氏(89)が、前回支持したトランプ大統領ではなく、民主党のマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長を支持していることが、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が今月21日明らかになりました。

 『荒野の用心棒』などのウエスタン映画で俳優としての名声を確立し、『ダーティーハリー』で悪の裁きに徹するキャラハン警部役で、腐敗を嫌うアメリカの価値観の柱である「正義」の体現者である一方、弱者への思いやりも重視するイーストウッド氏は、第3の政党といわれる右派のリバタリアン支持者として知られていました。

 「連邦政府の極小化」を主張するリバタリアンは、共和党右派の思想であり、アメリカが最も大切にする「自由」を重視すし、オバマ前大統領が導入した国民皆保険のオバマケアなどは対局にあるものです。つまり、国民には選択の自由があり、いかなり権力もその権利を奪えないというものです。

 ところが、ハリウッドスターや監督にはリベラル派が圧倒的に多く、人種や性的嗜好のダイバーシティを支持するヒューマニズム的思想支持者が多数派を占めています。代表格は今回の第92回米アカデミー授賞式で韓国映画『パラサイト』の作品賞をステージで発表した女優のジェーン・フォンダ(82)や、映画『俺たちに明日はない』で有名なウォーレン・ベイティ(82)が有名です。

 アンチ・トランプの有名人は多く、俳優のロバート・デ・ニーロやメリル・ストリープ、歌手のレディ・ガガもバリバリのクリントン支持者でした。つまり、イーストウッドほどの押しも押されぬ実績を誇るハリウッドの老練な巨匠が右派というのは珍しいといえます。無論、ハリウッド出身のレーガン大統領は共和党だったケースもありますが。

  その彼が、WSJが行ったインタビューで、トランプ氏の業績について一定評価した上で「下品な政治の劣悪で醜悪な性質に失望している」と語ったことは大きなインパクトを与えたといえます。特にイーストウッド氏は、トランプ氏について「ツイートをするのではなく、人を名前で呼び、より上品な態度を取るべきだ」と指摘しました。

 イーストウッド氏は、2016年の大統領選挙ではオバマ大統領の意向を継承するヒラリー・クリントン候補者に反対するためトランプ候補を強く支持しました。2012年の大統領選ではオバマ氏の2期目の再選を阻止すべく立ち上がった共和党のミッド・ロムニー候補を支持する演説でイーストウッド氏は、ステージに椅子を持ち込み、椅子をオバマ氏に見立てた演説を披露し、注目を集めました。

 そんなイーストウッド氏は今回のインタビューの中で、民主党候補者の指名争いに参戦している富豪のブルームバーグ氏について「私たちができる最善策は、マイケル・ブルームバーグ氏を候補にすることだ」と主張したのですから、驚きです。

 イーストウッド氏の指摘するトランプ氏の下品さは、しばしば共和党内でも批判されてきたことです。自分に反対する人間やメディアに対して、露骨で下品な表現でツイートする言動はエスカレートしています。アンチ・トランプの急先鋒のニュース専門の米ケーブルTV、CNNなどは、イーストウッドの発言に力を得ているかもしれませんが、実はハリウッドスターの影響は限定的です。

 ハリウッドスターは注目度と好感度が高いために、候補者の応援演説などで使われることは少なくありませんが、前回の大統領選で、非常に多くのハリウッドスターがクリントン候補を支持したにも関わらず、効果は限定的でした。

 というのもハリウッドスターの民主党支持には自己矛盾もあるからです。彼らのほとんどがビリオネアと呼ばれる富豪で恵まれた境遇にあります。リベラル派は女性、LGBT、貧困層、障害者の味方といわれますが、ハリウッドスターの民主党支持には偽善的な側面もあります。

 実は前回の大統領選では、民主党候補のクリントンの方が富豪で知られるトランプ氏より選挙で金を使ったことが知られています。アメリカでは集金力も重要な要素ですが、真面目で地味に働く中西部の白人労働者にとっては、クリントンを支持したスターやIT、金融のビリオネアは遠い存在でした。

 今回の大統領選は、バリバリの社会主義者のサンダース候補が優勢ですが、サンダース氏と指名を争うと予想されるブルームバーグ氏はトランプ氏の資産の20倍の6兆円を越す資産を持つ超富豪です。民主党は今回、極左のサンダース氏と超富豪のブルームバーグ氏が指名を争うと見られていますが、結果的にトランプ氏が漁夫の利を得る可能性も高いといえそうです。

 無論、新型コロナウィルスの世界的蔓延が世界経済に深刻なダメージを与え、アメリカの投資家たちも逃げ場を失えば、アメリカ経済もどうなるか分らず、大統領選挙も影響を受けそうな状況です。どちらにしてもアメリカ国民は内向きな孤立主義の方向に流れる可能性は高いといえます。

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