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  貧富の差が歴然なマニラ

 東南アジアや中南米、アフリカ諸国の発展が遅れている理由について、表立ってはいわなくとも民度の低さを挙げる人は少なくありません。しかし、それは結果論であって、私の知る限りヨーロッパの植民地時代にできてしまった社会構造が発展の妨げになっている方が圧倒的に大きいと考えています。

 シンガポール人の友人エリックは、オーストラリアのビジネススクールで学び、今はフィリピン、ベトナム、マレーシアの3カ国でモバイル端末向け精密部品の作る会社を経営しています。日本企業とも取引のある彼は、日本に比べ自分の国は「いい加減」だといっていますが、彼のフィリピン批判は格別です。

 「約束はほぼ守ることはないし、嘘をつくことにまったく罪悪感がない」「何か事が起きると、すぐ人に責任転嫁する」「シンガポール人もいい加減なところがあるが、フィリピン人は何倍も信用できない」といった具合だ。にも関わらず、彼はフィリピンに2カ所も生産拠点を持っています。

 活気づくアジアは今、中国リスクに伴い、外資によるアジア地域への投資拡散が進み、フィリピンもその受け皿の1国です。2019年の認可投資額は25%増で過去最高を記録し、国際的批判の多いドゥテルテ政権も70%以上の圧倒的支持率で安定政権を続け、発展が注目されている国の一つです。

 とはいえ、他の先発ASEAN諸国(インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムなど)に比べると、過去50年間のGDP成長率は相対的に低い水準で貧困削減、所得格差是正、インフラ整備などの課題を抱えています。特に貧富の差解消は歴代政府が克服できていない課題です。

 16世紀から19世紀まで380年に渡り、スペイン統治を受けたフィリピンは、ごく一部の支配層と9割の貧困層の構図が完全に定着してしまっています。スペインの植民地の統治方法は、金と権力を持つ一握りの支配層を利用し、政治的混乱を避けて統治させる方法でした。宗主国の圧倒的権力を付託された特別な支配層が既得権益を持ち、他の勢力を抑えつける方法が一般的でした。

 ヨーロッパ列強諸国にとって植民地は奴隷供給と資源獲得が目的だったので、その国を豊かにすることに興味はなく、優秀な人材が増えれば独立運動が起きるリスクもあるので、ごく一部の権力を与える富裕層以外には教育を施すこともなく、奴隷として売り返していた時代がありました。

 それが400年近くも続けば、階層は固定化し、既得権益を持つ者は他の侵入を許さない社会構造が出来上がり、農地所有も許されない圧倒的に多い農民層は諦めの境地に達し、向上心は消え失せました。その後のアメリカや日本統治で平民にも教育が施され増したが社会構造は変わらず、フィリピン人は超貧困なのに幸せな国民といわれる究極の諦めが定着してしまったわけです。

 フィリピンで大学に行くのは富裕層しかなく、私の友人にも圧倒的な富裕層出身者で日本の富裕層以上に恵まれた者も少なくありません。その富裕層は総人口の1%足らずです。その一方で海外に長期出稼ぎにいっている子供たちの仕送りだけで10人近い家族が暮らしているパターンも非常に多いのが現状です。経済発展と共に貧富に差は拡がっています。

 実は市民の味方のように見えるドゥテルテ大統領も父親は弁護士、母親は学校教師という上流階級出身者です。フィリピンでは政治家の多くが富裕層出身者で貧困とは縁のない人たちです。ほとんどの国民は教育にも関心がなく、たとえば日系企業の工場で働いてもプロ意識はまったくありません。

 スペイン社会に多大な影響を与えているカトリック教会も階層的です。礼拝では上流層信者は前に座り、下層民は後ろです。カトリックの伝統的教えは、生まれた時の境遇は神が与えたもので受け入れるしかないという考えです。これは支配層には都合のいい教えてでもありました。勉強して上の階層に登っていくの不信者の考えというわけです。

 この植民地主義が残した社会構造は、階層毎のメンタリティーは容易に変わることもなく、ネックになっていた農地改革に何度も歴代政府は取り組んでは既得権益者の壁に阻まれてきました。世界中で貧しい国の富裕層は先進国の富裕層より金を持っているといわれるのもヨーロッパの植民地統治が残した罪ともいえるものです。

 それもそれほど遠い過去のことともいえません。私の友人のフィリピン系アメリカ人は南米チリに奴隷として売られていった祖父母を先祖に持っています。話を聞けば気の遠くなるような複雑は歴史を垣間見ることができます。それは民度などという基準で推し量ることはできない歴史です。

 かつて資源と奴隷の供給源であった東南アジアが独立から70年以上経ち、不幸な歴史から抜け出すのは容易な事でないことは事実です。今は中国の覇権主義に脅かされている現実もあります。そんな中、彼らの歴史を理解した上で日本が発展に寄与する意義は大きいといえます。

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