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  弾劾裁判の鍵を握った男、ラマー・アレクサンダー上院議員

 米上院で開かれたトランプ大統領の弾劾裁判は1月31日、野党民主党が求めていたボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)らの証人尋問について採決を行い、賛成49、反対51の反対多数で否決されました。これでトランプ大統領を有罪にしようとした民主党の目論見は崩れたといえます。

 大統領の一般教書演説後に判決が言い渡される予定ですが、上院で共和党が多数派を占めているため弾劾裁判は退けられる流れです。ボルトン氏の証人喚問をめぐって、民主党が頼みの綱としていた共和党穏健派の一人、ラマー・アレクサンダー上院議員が反対に回ったことが大きかったといえます。

 実はテネシー州の知事や合衆国教育長官を歴任したテネシー州選出のアレクサンダー氏には、インタビューしたことがあります。アメリカでは知事から大統領というパターンが多く、全米知事協会の議長も務めた彼は、かつては大統領の椅子を狙う一人でした。

 資金力とメディアへの露出度が物をいう大統領選で、共和党候補の指名争いで生き残ることができなかった清廉なアレクサンダー氏について、当時、ニューヨークタイムズ紙は金にまみれた選挙の犠牲者として彼のことを報じました。温厚で誠実な人柄は南部出身者らしい親しみ易さがありました。

 共和党会議議長を務めるアレクサンダー氏は、押しも押されぬ共和党の重鎮の一人で現在79歳。トランプ大統領の弾劾の鍵を握る人物として注目され、彼はボルトン氏の喚問は必要なしとの声明を1月30日に発表しました。彼の決定は民主党を愕然とさせるものだったことは確かです。

 声明で「すでに証明されたことについて、そして合衆国憲法が高い基準を設定している弾劾罷免に相当する不法行為に当たらないことについて、これ以上の証拠は不要だ」とし、「問題は、(弾劾罷免に相当する問題行動を)大統領が行ったかどうかを判断するのが合衆国上院なのか、それともアメリカ国民なのかだ」と指摘しました。

 そして「2月3日のアイオワで始まる大統領選挙で国民がその判断をするよう、憲法は規定しているのだと私は考える」と証人召喚に反対する理由を説明しました。ニューヨーク大学法科大学院を出て、法律家として働いていた経験を持つアレクサンダー氏の見解は、一定の説得力を持ったといえます。

 上院ではボルトン氏の証人喚問を巡り、アレクサンダー氏を含むロムニー議員(ユタ州)、マーコウスキー議員(アラスカ州)、コリンズ議員の4人の共和党上院議員の動向が注目されました。そのうちロムニー議員とコリンズ議員は証人喚問を支持するとしていました。

 問題はトランプ氏が昨年7月にウクライナ大統領との電話で、軍事援助の凍結解除をちらつかせながら、政敵のバイデン氏と息子への捜査を働きかけたほか、これに対する下院の調査を妨害したとして昨年12月に下院で弾劾訴追したことが大統領選に与える影響です。

 昨年9月に、トランプ氏から解任されたボルトン氏は今年3月には暴露本を出版する予定ですが、実はボルトン氏は民主党が最も嫌う超保守のネオコンの中心人物の一人です。解任された恨みであることないことをぶちまけるボルトン氏の信用度もさることながら、民主党はかつてのトランプ氏の飼い犬を利用しようという浅ましさも印象がいいとはいえません。

 大統領弾劾は上院で共和党が多数派を占めている以上、難しいと当初からいわれていましたが、ならば民主党の狙いは何だったのかと考えると、この裁判でトランプ氏が限りなくグレーだという印象を国民に与え、大統領選を有利に運ぼうということしか考えられません。

 その意味ではアレクサンダー氏の「大統領選で国民が判断するイシュー」という考えは、深い意味を持っているといえます。逆に共和党が最後までトランプ氏を守ったことで、トランプ氏に貸しを作ったとも見れます。4日の一般教書演説で共和党の政策を尊重するかどうかを見定めてから弾劾裁判の結論を翌日に出すことにした意味もそこにあると見ることもできます。

 再選をめざすトランプ大統領と共和党の関係は容易でないことは、2017年1月にトランプ氏が大統領に就任以来続いていることです。中間選挙で下院で共和党が野党に転落した原因をトランプ氏のせいにする見方は今も強いといえます。弾劾裁判で民主党の術中にはまることは避けられても、ウクライナ疑惑は後を引きそうです。

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