coronovirus

 新型肺炎コロナウイルスの世界的拡大が止まりません。連日、中国を中心に世界中で感染者数は増え続け、死者の数も今の段階で100人を超えています。日本でも人から人への感染が確認され、感染拡大は第2フェーズに入ったといわれています。

 2002年に中国で始まった重症急性呼吸器症候群(SARS)の世界的感染拡大同様、中国政府の隠蔽体質や対応の遅さが中国国内でも激しく批判されていることが報じられていますが、超内向きの中国ならではの現象ともいえます。私はリスクマネジメントの観点からすれば、中央集権の弱みが露呈したと見ています。

 世界は今、迅速な意思決定が可能性で強権発動が容易な中国やロシア、イラン、北朝鮮のような中央集権、独裁体制の国家によって、意思決定が煩雑で個人の自由を尊重する民主主義体制の国家が脅威に晒されています。今回も東京都と同じ規模の武漢を封鎖できたのは中国政府にそれだけの権限があるからといわれています。

 一見、中央集権の方が危機管理に強いように見えますが、実は意思決定のプロセス構築は重要ですが、リスクをトータルにマネジメント本質ではありません。たとえば昨年9月、過去最強クラスの台風15号が関東を襲った時、千葉の森田知事が県庁に駆けつけなかったことが問題になりました。意思決定が不在となれば、迅速な対応ができない典型例です。

 中央集権の強みは迅速な対応ができることですが、一方、権限を持つ者が質の高い情報をもとに適切な判断を迅速に下せない場合は総倒れになり、危機は拡大するという欠陥があります。中国政府の対応は、SARSの教訓を踏まえ、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)などは当初は適切に対応していると報じていました。

 しかし、事態が悪化するとWSJは「新型肺炎の拡大、中国統治機構の脆さ露呈」という社説を掲載し、ネガティブな面を指摘しています。私は最初から、ポジティブに報じたWSJに大きな疑問を持っていたため、アメリカは未だに中国の本質を知らないのだなと思いました。

 WSJは社説の中で「2002年にSARSが流行した当時と比べ、中国の透明性は高まっている」としながらも、事態悪化に対して「しかし、中国の対応はまだ国際基準には達しておらず、当局者の説明は時間単位で変化しているようだ」と書いています。

 武漢市の華南海鮮卸売市場で11月か12月に始まったと考えられるウイルスの拡散について、地元当局者は、人から人への感染を示唆する証拠があったにもかかわらず、当初はウイルスの感染拡大リスクを過小評価していました。中国の国家衛生健康委員会がウイルスが人から人へ感染することを公式に認めた段階で対応の遅れは決定的になっていました。

 では、なぜ、地元当局者や専門家から提供された情報が中央政府で迅速な判断に繋がらなかったのかということです。WSJは「中国が国際的な評価を得るため、ライフサイエンス・パーク、遺伝子治療、がん研究、医療機器やその他費用のかかる研究向けに何百億ドルもの資金を投入してきた」ことを指摘し、中国の産業革新政策で生物医学は主要項目の1つに挙げられているとしています。

 その一方で、中国人観光客が中国で変えないマスクを日本でマスクを買い漁り、今、緊急に必要な医療関係者の防護服が1日10万着必要なのに対して中国国内では1日3万着しか製造できないという矛盾を抱えています。

 つまり、「人口当たりの医師数がメキシコより約20%少なく、総合診療医の数は世界保健機関(WHO)の基準を70%下回っている」(WSJ)。世界を支配するための製造業育成のために生物医学に巨額投資はいとわない一方、足元の国民に対する医療は未整備のままという状態です。

 私はリスクマネジメントの観点からして、リスクに最も近い人間がリスクオーナーとなってマネジメントしなければ、適切な対応は取れないと、このブログに何度も書いてきました。武漢から1,200キロ以上離れた北京の中央政府が全ての権限を握っている状態では適切は判断は下せません。

 パリの国境なき医師団(MSF)で聞いた話で、彼らが日々直面する緊急事態に対応するため、組織はピラミッド型になっていないという説明が印象に残っています。各国のMSFは他国との調整はせず、独自判断で動いているというのです。「調整している時間はありませんから」というのが答えでした。

 共産主義の統治体制は、現場からのフィードバックを軽視する一方、完全な上からの一方通行の決定で動いています。WSJがいうような国際基準に則した透明性の問題よりも、リスクマネジメントには不適切な中央集権的意思決定体制が問題と見るべきでしょう。

 今後もこのような体制下では、対応は後手後手に回るのは確実です。被害が拡大し深刻さを増せば、国民は黙っていないでしょう。すでに中国の株価は下がり、リセッションの危機が迫り、世界経済への悪影響も指摘されています。

 すでに香港、台湾問題で習近平政権は失敗を重ねており、今回は国民が直接の被害者です。共産党政府への国民の信頼が不信に変われば、政権を揺るがす事態に発展しかねない状況です。

ブログ内関連記事
新型肺炎コロナウイルスの脅威 カントリーリスクへの判断はリスクオーナーが行うべき
中国建国70周年 香港は英国が放った刺客か それとも怪物ドラゴンの餌になってしまうのか
けっして成功とはいえない習近平の中国 ヴィジョンより見栄で眠れる獅子を起してしまったか
予想されるグローバルクライシスには指揮官が鍵になる