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 パリのルーヴル美術館が存命中の画家の展覧会をしたことは過去2回しかない。ピカソとシャガールでどちらも実はフランス生まれの画家ではありません。ピカソはスペイン、シャガールはロシア(現ベラルーシ)の生まれで、フランスで世界的巨匠になった外国出身者たちです。

 エコール・ド・パリの時代のフランス人画家なら世界中の人が知っている作家は多い一方、存命中の現代画家で世界的巨匠と言われるフランス人画家はあまり多くはいません。その中でフランス現代美術の生き証人的存在ともいえるのが「黒」を探求した絵画で世界的に知られるピエール・スーラージュ。

 とにかくスーラージュは昨年暮れで100歳になり、黒をこれだけ長期に探求したというのは人間業とは思えず、普通は人生の中で画風が何度か変わるものです。パリ・ルーヴル美術館で開催中のスーラージュの回顧展(3月9日まで)は、かつてダヴィンチの「モナリザ」が展示されていたドゥノン翼にあるサロン・カレで開催されています。

 下世話な話ですが、存命フランス人画家としては最高額となる1960年制作の絵画作品が960万ユーロ(約11億7千万円)で最近落札されました。第一次世界大戦が終わった翌年に生まれ、画業は70年に及び、今回も会場設定に立ち合い、作品の展示の光の具合を丁寧に指示していたというから驚きです。

 戦後はアンフォルメルの画家として注目を集めたこともあり、アメリカでも高い評価を受けました。今回の個展では、スーラージュに長年関わった著名なキュレーター2人が代表作を厳選、70年に渡る絵画制作の変遷を示す代表作と高さ4メートル近い新作までの約20点が天井の高い広いスペースのサロン・カレでゆったりと展示されています。

 時系列で並ぶ作品の最初は、彼が画家としてパリに住み始めた1946年の作品「紙の上のクルミ塗料」。「黒を超越した黒」といわれるスーラージュの作品郡は自作の大きな刷毛やペインティングナイフで凹凸のあるマチエールで光まで表現され、今も南仏の町・セットのアトリエで制作が続けられているそうです。

 黒の探求は、光の探求でもあったといわれ、タールを使用するなど物質として黒、色彩としての黒がガラスを通して光を取り込む作品でも知られています。1919年フランス南部アヴェロン県ロデスに生まれた青年スーラージュは、パリでセザンヌやピカソの絵に感銘を受けた一方、エコール・ド・ボザールの教えには反発し、すぐに田舎に引き返し、制作を開始したといわれています。

 戦後のアンフォルメル運動には完全に入らず、独自の道を模索し続け、黒を通して常に新しい表現に挑戦してきました。1951年に初来日したスーラージュの作品から墨の「書」をイメージした日本人も少なくなかったといわれますが、黒い線や形状に文字的意味を持たせたことはありません。画家には夭逝の天才もいる一方、作品がもたらす100歳の宗教的ともいえる精神の深遠さの迫力に圧倒されます。

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