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      カナダ・トロントはヘンリー王子夫妻のやすらぎの地になるのか

 アメリカのメディアによると、英王室のヘンリー王子とメーガン妃の英国脱出について、北米の人々は「幸せになるための選択ならいいと思う」「人生楽しんだらいい」と好感を示す反面、「勝手にすればいい」「自分とは関係ない話」という冷淡な反応も多かったとしています。

 アメリカもカナダも移民が集まってできた歴史の浅い国ですが、特に英国との関係は深く、アメリカは英国と独立戦争で戦い、カナダは英連邦として、未だにエリザベス女王を国家元首とする関係にあります。興味深いのは両国の国民が英王室を英国ブランドとしか見ておらず、伝統とか権威にまったく関心がないことです。

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、メーガン妃が女優時代に出演したテレビ番組「スーツ」の収録場所だったトロントを取材し、アンガス・リード研究所が今月15日に公表した最新調査結果を伝えています。それによると、カナダ人の半分は「最終的にはあまり関心がない」、11%は「腹立たしい」、39%は「うれしい」と回答したそうです。

 同時に今後も許された「サセックス公爵夫妻」という立場について「英国の公爵と公爵夫人が裏庭にいるのはごめんだ」と眉をひそめる人も少ないないとしています。まず、ヘンリー王子とメーガン妃が英王室のシニアメンバーとしての役割を退き、北米で大半の時間を過ごす意向を明らかにしたことについては「自分には関係ない」と思っている人が多く、これはニューヨーカーたちへの取材でも同じ。

 守らなければいけない歴史的伝統を持ち合わせていないカナダ、アメリカ国民には当然の反応でしょうが、興味深いのは、英王室に憧れる人々は「わが国への訪問はいいが、彼らは英国にいてほしい」という意見です。つまり、現実には北米に存在しないおとぎの国の人々はそこにいてこそ価値があるという話です。

 アメリカと違い、自由より平等に価値を置くトロントの人々の意見を反映しているのは、英連邦カナダとしてはヘンリー夫妻の警護費用など経済負担をするハメになる(これはなくなるようだが)ことを懸念していた。それに遠くにいれば気にならないが、特別な王室ブランドで経済的に恵まれた家族が近くに同じ町に住むとなれば、不快に感じるだろうという懸念です。

 中国からの移民も多いカナダは国家元首がエリザベス女王といっても、あくまで象徴的で国民の中に君主制主義者は少なく、王室への尊敬という特別な感情もありません。ましてやノブレスオブリージュ(高貴の義務)の意識は皆無です。

 権威や階層性を嫌って自分の国を脱出した人間たちによって作られたカナダでは、一方で自分たちと同じように自由を求めて英国を脱出することは個人の選択としてはいいと思う反面、王室ブランドを引きずることへは戸惑いもあるということでしょう。

 それはアメリカも同じで、伝統とはまったく縁のないアメリカ人は、人間を崇拝する習慣はなく、よってヘンリー夫妻が英王室のシニアメンバーとしての役割を退くことについての議論には、まったく関心がないのも当然といえることです。

 同時にアメリカもカナダも都合の悪くなった出身国を捨てた人たちが作り出した国なので、アメリカ人であるメーガン妃が人種差別やいじめ、プライベートを侵すイエローペーパー・ジャーナリズムの被害者として英国から逃げ出したいという話には共感している部分もあるでしょう。

 裏を返せば、逃げ癖のある北米人は、逃げることを敗北とは考えず、懸命な選択と考える傾向があるということです。アメリカ人は別の地に引っ越す時、「これからもっといいことがある」と期待に胸をふくらませるのも、国自体がそうやって成り立った国だからです。

 少なくとも、人の生活に土足で踏み込むことを「良しとしない」北米社会は、夫妻にとってはしばらくはやすらぎの地になるかもしれません。一方で北米には存在しない血統ブランドを否が応でも持ち込むことになる夫妻の存在は、やがて嫉妬や不快感を生む可能性もあるでしょう。そうなると安住の地ともいえなくなる可能性もあります。

 ただ、今回のエリザベス女王の最終決定はヘンリー夫妻の称号返上はなく、事実上称号剥奪を意味しています。公務を気の向いた時だけすることは許されるべきでなく、王室メンバーが保つべき規範も公務の重さも孫のヘンリーは理解していなかったことは明白です。称号を持ったママ、これまで以上に王室の品位を傷つけられても困るということです。

 そもそも、メーガン妃はパパラッチの犠牲になった話と、彼女が英王室の1員になることの公的、国家的な意味を理解していたかは別問題です。王室の公務の意味もアメリカ人やカナダ人は理解していないし、今後も理解不能だと思います。英国人が不快感を示すのは当然でしょう。

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