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 アメリカのトランプ大統領の打ち出す政策は支離滅裂と指摘されることは多い。特にプロと呼ばれる外交専門家やエコノミストは、悪い予想を繰り返しながら、結果は逆の場合も少なくありません。米中貿易戦争は今月15日、貿易交渉を巡る「第1段階」の合意に両国がようやく署名しました。

 一部関税措置を取り下げるほか、中国はアメリカからモノとサービスの輸入を拡大させることを決めたわけですが、アメリカが仕掛けたこの戦争は、多くの専門家が批判しました。

 たとえばアメリカの追加関税に反発する中国が報復関税をアメリカの農産物に課したのに対して、アメリカの農家は甚大な被害を受けると批判されましたが、アメリカ政府は補助金で農家を支え、支持を失っていません。

 トランプ政権発足の2017年以降のアメリカの雇用統計の推移を見ると失業率は4.8から3.5%に確実に下降しました。特に製造業の中心地、中西部では長期失業者が仕事に復帰する現象が続いています。トランプ氏がどこを向いて政治を行っているのかといえば、ワシントンやニューヨークではなく、伝統的なキリスト教の価値観を守り、真面目に働く労働者が住む中西部です。

 最近、興味深いニュースがありました。それは、世界の航空機史上を2分する欧州航空機大手エアバスが昨年、8年ぶりに米ボーイング社を抜いて首位に立ったというニュースです。エアバスは2019年に863機の民間航空機を99の顧客に納入し、前年度比の生産記録7.9%増だったことを明らかにしました。

 同社によれば、17年連続の生産増で、総受注機数は36%増の1,131機と、増加率は過去6年間で最高を記録したとしています。ボーイング社の苦戦の主な理由は、主力機の737MAXが事故続きで信頼を失ったことです。ライアン・エア610便墜落事故とエチオピア航空302便墜落事故を受け、737MAXは昨年12月に生産停止を発表しました。

 当然、競合機のエアバスA320 には追い風になりました。受注が増えたエアバスは大量受注残を消化するため、21年に世界で月間63機を生産する計画を明らかにしました。これだけ見ると、アメリカの航空機産業は大きなダメージを受けたように見えますが、そうともいえません。

 エアバス社は今年1月9日、2021年に向けた経営方針の1つとして、主力小型機A320シリーズ増産のため、米アラバマ州モビールにある生産施設に格納庫を増設するなど、総額10億ドル(約1100億円)規模の投資を行う方針を発表しました。

 理由の一つは、アメリカ政府が欧州連合(EU)の航空機補助金が世界貿易機関(WTO)協定違反だとして、欧州産の航空機に10%の報復関税を発動したことで、アメリカ国内生産を増やすことでアメリカで売る航空機の関税を回避しようというわけです。

 エアバス本社のあるフランスでは、雇用が伸び、関連部品メーカー1万社も潤っています。しかし、関税回避のためアメリカでの生産を増やさざるを得ないというわけです。アメリカにとっては自国のボーイング社が劣勢にあるのはよくないことですが、勝った相手のエアバスもアメリカで雇用を増やさざるを得ない結果を産んでいます。

 2017年アメリカ大統領に就任したトランプ氏は異例尽くしで選挙に勝利しました。当初は政治経験のないビジネス界出身のトランプ氏は、泡沫候補といわれ独立候補でした。共和党は選挙選の動向で泣く泣くトランプ氏を共和党候補に認め、結果、人気の高かったクリントン候補を打ち破り大統領になりました。

 この3年間、岩盤支持層といわれたのは、中西部を中心とした白人労働者階級、農業従事者、そしてキリスト教福音派の保守層です。何があってもトランプに付いていくという層といわれてきました。

 彼らの多くは、金融とITが牽引するグローバル化に取り残され、生産拠点が中国に移動し、失業に苦しんできた人々でした。中間選挙では共和党は中西部4州で支持を失い敗北していますが、大統領選ではどうなのか注目されるところです。

 中国だけでなく、欧州や日本にまで牙を剥いて、関税圧力をかけているトランプ大統領ですが、自分を選んだ支持層に答えるためなら、専門家に馬鹿にされても、どこ吹く風という印象です。興味深いのは、世界の誰もがグローバル化に乗り遅れないように必死だったところに、グローバル化にブレーキを掛けるような政策を連発しながら経済が好調という現象です。

 この結果を受け、国際協調主義を最重視するフランスなども、マクロン大統領が国益重視を口にするようになりました。世界が一つになるという耳障りのいい理想主義とは裏腹に恐ろしい勢いで勝ち組と負け組の格差を生んだグローバル化は、手に負えないモンスター化し、負け組はごみ箱に放り込まれる事態になっているとも言えます。

 いずれにしろ、トランプ大統領は、大統領選で支持層に何らかの成果を早い段階で示すために、日本に自動車関税のカードをちらつかせアメリカの兵器購入を迫ったり、サイバー攻撃をやめない中国に対して圧力をくわえ、中国がさらにアメリカ産の農作物や製品を購入するよう迫ったりすること可能性もあります。

 ただ、この3年間でトランプ大統領が世界の経済環境を大きく変えたことは事実でしょう。ビジネス界出身者がグローバル化にブレーキを掛け、軌道修正したというのは興味深いところです。

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