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 日本から違法国外逃亡した日産自動車のゴーン元会長のベイルートでの8日の記者会見について、日本、レバノン、フランスといった当事国がどう動くかなど、見えない部分もありますが、今の時点での私なりの印象をメモしておきたいと思います。

 第1印象は、ゴーン被告が自ら無罪とする具体的反論は示されなかったことで世界的注目度の高い事件なだけに肩すかしをくらった印象でした。日本の報道機関はテレビ東京だけが会場入りを許され、十分な質問もできず、ゴーン被告が支援を期待する欧米やアラブメディアの報道が今は先行しています。

 ゴーン被告が終始一貫主張する日本の不公正な司法に苦しめられたという主張は、自分の体験を話しているわけですが、2018年暮れの逮捕は、自分を追い出すために日産幹部が日本政府に泣きついて実行されたクーデターだという主張は、当人の想像の域を出ない抽象的な反論に終始しました。

 世界中で高額の弁護士を雇っているゴーン被告としては、まだ、係争中事案なので、公にできないこともあると考えているのか、あるいは問われている金融取引法違反や会社法違反について裁判で勝てる説明を本当は持っていないのか、日産クーデターの決定的証拠もないのか明確にならない会見でした。

 第2の印象は、ゴーン被告は自分が法律の上にも立てると勘違いしていることです。合法か違法かは自分が決めるという想像できないほどの傲慢な態度です。フランスの国営TVフランス2は「自分を賞賛するための会見だった」といっていますが、日本の司法への怒りはフランスにまで向けられました。

 ベルサイユ宮殿で行われたド派手は結婚パーティーの資金の出所について、「ボロボロだったベルサイユ宮殿を、この私の金で再建してやったのに」と、フランス人もあっけにとられる発言をしました。さらに自分を追い出した後の日産もルノーもボロボロだともいいました。

 今のところ、世界には国際司法裁判所や国際商業裁判所あるものの、1国で有罪になりそうなので自分に有利となる他の国に逃亡して、そこで裁きを受けるという行動には無理があります。無論、転んでもただでは起きないゴーン被告の行動は要注意です。

 それでもゴーン被告は、たまたま巨額の財産があったので億という金を費やし日本を違法脱出できたわけで、それが三権分立もない北朝鮮のような国ならともかく、先進国の日本から金の力で強引に違法脱出した時点で、彼は自分の正当性を訴える場を放棄し、どんな主張も説得力を失っています。

 もし、日本の司法のあり方の問題ではなく、彼が一貫して主張する無罪の決定的証拠を示せれば、多少事態は動くかもしれませんが、会見を見る限り、本当に証拠を持っているのか疑問です。レバノン政府に迷惑をかけたくないので関与した日本の政治家の実名は明かさないといいますが、その政治家が関わった決定的証拠を名前をふせて公表することも本当は可能なはずです。

 今回の問題は、ゴーン被告が身を持って体験した取り調べに弁護士が立ち会えないとか、罪を認めなければ保釈されない、妻子にも会えないという人質司法への強烈な批判と、実際に無罪を主張している起訴された罪状や、違法国外逃亡したことについては分けて考える必要があるということです。

 国外逃亡は国家主権を脅かす罪です。私自身はゴーン氏が無罪を主張し、裁判で争うとした主張に結果的に騙され、逃亡を許した日本の司法にも問題はあるし、取り調べ方法や保釈中の監視、出入国管理強化をどうするのかなど改善点は多いと思います。しかし、それとゴーン被告の有罪、無罪は同じ土俵で論じられる問題ではありません。

 ゴーン被告の記者会見を見ながら、彼の強権的リーダーシップに音を上げていた日産幹部を想像するに文化の違いも含め、彼らに同情の余地もあります。米英のような民主的統治体制ではなく、権限が集中する中央集権的フランスで身につけたゴーン流リーダーシップは、倒産寸前の企業再生では有効でも成長拡大フェーズでは限界があったと見えます。

 今回の記者会見は、倒れかけた日産の救世主として日本に乗り込み、奇跡の再生を果たしたゴーン元会長に対して、邪魔になると不公正な日本の司法の場に晒したことへの恨みつらみの感情が渦巻いたものでした。それも自国民にはそんなことはしないのに、外人差別と排除が裏にあると理解しているようです。

 ならば余計に日本の司法の場で持ち前の闘争心で闘うべきだったでしょう。自尊心が傷つけられたといいますが、その前に彼は独裁者で法律の上に立つ神になっていたということです。

 ただ、世界に同時中継された記者会見の場でゴーン被告に強烈に批判された日本の司法は、なんらかのメッセージを世界に発信すべきでしょう。それにかつて田中角栄を逮捕し、司法の独立性を示した日本で、なんらかの政治的意図が司法に影響を与えたとすれば、それは明らかな日本の劣化として受け止められるべきでしょう。

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