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    パリ11区シャルリー・エブド本部のあった現場(写真奥右側の建物)

 今から丁度5年前の2015年1月7日午前11時20分頃、パリ11区にある風刺週刊紙、シャルリー・エブド本部をカラシニコフ銃で武装した2人の男が襲撃し、周辺に住民は30発以上の銃声を聞き、背中が凍りついたと証言しました。

 2人は玄関口にいた警備員を殺害し、上階に駆け上がり、その場にいた編集者、風刺漫画家、コラムニストなどを皆殺した上で逃走し、その場に駆けつけた警官を含む計12名が犠牲になりました。殺害された中には世界的に有名な風刺漫画家もいてアメリカのメディアの仕事もしていました。

 テロはそれで終わらず、翌日、パリ南郊外の私が30年近く前に短期間住んだことのあるモンルージュで別の男によって女性警官1人が射殺され、その翌日にはパリ東郊外のユダヤ食品スーパーで立て籠もり事件が発生しました。特殊部隊が強行突入したものの4人が殺害され、一連のテロの容疑者が全て繫がりを持ち、計画的に実行されたことが明らかになりました。

 その年の11月には、死者130名、負傷者300名以上という史上最悪のパリ同時多発テロが起きました。その年だけで、ほぼ毎月小規模なテロが発生した一方、フランスはシリアやイラクの紛争地域に向かうイスラム聖戦主義過激派の戦闘員の最大の供給国になりました。

 実はシャルリー・エブド襲撃テロ7周年の追悼の日を前にして、今年に入り、すでに2件のテロ事件がフランスで起きています。1つはパリ南郊外ヴィルジュイフで今月3日、男が刃物で通行人を襲い、1人を死亡させ、2人が負傷した事件で22歳の容疑者の男は現場に駆けつけた警察官によって射殺されました。

 捜査当局は、男には深刻な精神疾患があったことも認めている一方、容疑者が所持していた鞄の中からイスラム聖戦主義思想に関する本が見つかったことから計画的犯行と断定、テロとして事件の背景の捜査を開始しました。

 容疑者の男は、大型スーパー、キャルフールの駐車場付近で散歩中の夫婦やジョギング中の女性を襲い、犯行当時に「アッラー・アクバル(アッラーは偉大なり)」と叫び、その場で自分はイスラム教徒だと叫んだいった通行人だけは襲わなかったとそうです。男は2017年にイスラム教に改宗していたことも確認されています。

 2件目は、フランス北東部モゼル県メスでは今月5日正午頃、ナイフを持った30歳代の男が警察官らを襲う事件が起き、男は国内治安総局(GDSI)の危険人物リスト、Sファイルに載っていた人物でした。現場に駆けつけた警官に「アッラー・アクバル」と叫びながらナイフを振りかざし、その場で逮捕され、その後、仲間と思われる人物も身柄を拘束されました。

 当地担当検事によれば、男は精神疾患を抱えている一方、イスラム聖戦思想に傾倒し、過激な行動を取る可能性があるとして監視リストSファイルに掲載されていたといいます。Sファイルにあるからといって24時間監視するのは不可能なので特に少人数で実行されるテロを未然に防ぐのは至難の技です。

 フランス内務省は仏国内で約2万人弱が過激思想に何らかの影響を受けていると見ており、昨年10月には、パリ警視庁内で聖戦思想に傾倒した職員が庁舎内でナイフを振り回し、同僚警官ら4人を殺害する事件も起きています。この事件を受け、公務員や公共サービス部門にも聖戦主義が拡散している実態が浮き彫りになりました。

 ルドリアン外相は昨年秋、トルコ軍がシリア北部のクルド人支配地域を攻撃した時、イスラム過激派、イスラム国(IS)について「ISは再び台頭する機会を伺っている。ISは根絶などしていない」との認識を示しました。特にIS指導者トップ、バグダディ容疑者が潜伏先のシリア北西部で米軍の急襲により10月26日に死亡して以来、ISは報復の機会を伺っています。

 今また、アメリカとイランの関係の急速な悪化に伴い中東が不安定化する中、ISは再起の機会を得ているともいえます。となるとフランスに潜伏する聖戦主義の共感者らがテロを計画する可能性は高まっていると見るのが妥当でしょう。

 貧富の差の拡大するフランスでは、差別や貧困、家庭崩壊の社会の闇の中で暮らすアラブ系移民や自分の価値を見出せない白人の若者が、聖戦思想に心を奪われる例は少なくありません。ネット上では彼らに被害妄想を植えつけ、西洋を敵とする聖戦に加われば、アッラーが最高の価値を与えてくれると煽動し、孤立した若者は聖戦思想を吹き込んでいます。

 逆にイスラム教やユダヤ教を嫌う極右思想も拡散していており、昨年10月にはフランス南西部バイヨンヌで、84歳の男がイスラム礼拝所モスクを襲撃し、午後の礼拝の準備をしていた70歳代の男性2人が発砲を受け、重傷を負う事件が発生しました。聖戦主義と極右思想の衝突も懸念されています。

 グローバル化で日本を逃げ出したゴーン前日産会長に象徴されるような拝金主義がますます拡大し、恵まれた者が弱者を支えるという考えそのものが失われつつああります。社会の隅に追いやられた負け組の1部が危険な過激思想に生き甲斐を見出すケースは、むしろ増える一方で、彼らは野蛮な怪物と化し、残虐行為を繰り返す結果を生んでいます。

 個人の自由を否定し国民を強権で支配する社会主義には、まったく賛同できませんが、恵まれた者が社会的義務を果すことは非常に重要だと思います。本当はその心をもたらす宗教も社会の隅を追いやられ、影響力を失っていることは深刻といわざるを得ません。

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