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 ブレグジットが3年半ぶりにようやく確実になりそうですが、一貫していわれていたのが英国民は楽観的だったということです。確かに2019年は、多くの英国民がブレグジットを話題にすることすら避けたいくらいうんざりの状態でしたが、それでも「なんとかなる」と悲観的にはなっていませんでした。

 その英国がかつて統治していた香港は、一国二制度を危うくする中国中央政府の強圧的支配に抗議するデモが半年以上続き、年明けまで続きそうです。その一方で大規模な改修を終えた公共美術館、香港藝術館が最近オープンし、学生が乱入しそうなモールで食事をし、騒乱中の同じ小さな香港内で起きているとは思えない対照的な出来事です。

 その中国本土も経済は減速状態にあり、米中貿易戦争は終息の気配を見えず、先行き不透明状態が続いています。香港のみならず、ウイグル族への弾圧などで国際的批判を浴びるなど、課題は山積状態ですが、実は案外、国民は全体的に楽観的です。アメリカ国内でファーウェイに圧力がかけられても、13億の市場規模の中国では不安要因ではありません。

 その中国と対峙するアメリカは次期大統領選を控え、連日のようにトランプ米大統領の弾劾の行方が報道されていますが、トランプ氏の大統領就任以来、何度も景気減速や株価下落の予想が浮上しましたが、そうはなりませんでした。フェイスブックから個人情報が大量に流出し、アマゾンの推奨商品に不良品が少なくないことが指摘されても、ビクともしていません。

 最近、過激派組織、イスラム国(IS)がイラクやシリアで勢力を盛り返していることが伝えられています。この5年間、テロが頻発したフランスのルドリアン外相が指摘したように、ISは絶滅などしておらず、復活の機会を伺っているという見立て通りの動きが出ています。

 今後、アフガニスタンから米軍が大規模撤退すれば、世界中でテロが起きるという予想もあります。つまり、世界は投資家が最も嫌う不透明、不確かな状況に満ちています。

 オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士が50年以上、国民性を調査、分析した中から生まれた国民性指標の中に「不確性の回避」という項目があります。「自分の常識とは違う状況に危険を感じるか否か」という項目です。

 人は自分の常識では計れない人間や状況に遭遇すると、なんらかのストレスや不安を感じるものです。しかし、ホフステードは、そのストレスは国民により違いがあることを発見し、国ごとの指標を示しています。それによると英国人、アメリカ人、中国人は不安やストレスを感じる度合が低いというのです。

 逆に日本人、フランス人、ドイツ人は、ストレスを強く感じる国です。つまり、不確実な状況に対して悲観的になりやすいということです。行き過ぎればパニックにも陥る可能性があります。たとえば海外旅行に出かける前に徹底した準備をするのが日本人やドイツ人、フランス人です。

 空港からホテルまでの行き方、その国で気をつけることや毎日のスケジュールの確認、必要と思われる物は全部抱えて持っていくのは、逆に言えば、自分がこれから行く国の不確実な状況に不安を感じるからです。

 ワールドトラベラーとして知られる英国人は、大した準備もせず、ホテルに着いたら、フロントで「今日はこの町で何かおもしろいことはあるか」などと聞く光景をよく目にします。日本で爆買いする中国人は買い物しすぎると現地でスーツケースを買い、柔軟に対応しています。

 今は余程の国でない限り、多くの日用品は現地で手に入るのに、日本人は全て抱えて持っていこうとしますが、英国人はしません。この不確実な状況に強い不安を感じる性格にはメリットもあります。それはあらゆる困難な状況に備えるリスクマネジメント意識が高いことです。備えあれば憂いなしということです。

 一方、デメリットは慎重すぎて大胆な行動が取れないことです。ビジネスは常にギャンブル性を抱えていますが、日本人はハイリスクの懸けに出るより被害を最小化する方を好み、保守的です。サラリーマン社長は保身のために大改革を実行せず、自分の就任期間に何事も起こらないようにするのも不確実性を回避したい本能が働いているからです。

 逆に不確実な状況に強いストレスを感じないアメリカ人は「なんでも問題は必ず解決できる」という考えが強いといわれます。超楽観的で、たとえば、極端な例ではマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏や、ファイスブック創業者のザッカーバーグ氏は、ハーバート大学中退組です。学歴社会のアメリカでハーバート大学を中退するのは、かなりの不確実な選択です。

 しかし、アメリカ人はこのような話が大好きです。むしろ、不確実なことに挑戦するマインドは評価されています。もともとアメリカのビジネスマインドはハイリスク、ハイリターンです。たとえ成功者が一握りの人間だとしても、チャレンジ精神を大切にしています。

 逆に不確かなことにストレスを感じやすいフランスでは、チャレンジという言葉はネガティブに使われる方が圧倒的に多く、起業文化はアメリカや英国の足元にも及びません。常に保障を求め、確実かどうかが重視されます。年金制度改革で気が狂ったように反発するフランス人は、保障の象徴である年金が不確かになることへの極度の不安を感じているからです。

 今から30年前、日中文化交流協会の代表理事の一人だった作曲家の故團伊玖磨氏から聞いた話ですが、中国奥地を訪れた時、村人から「今の皇帝は誰か」と聞かれたことがあったといいます。「今は中国共産党が国を治め、小平が主席だ」と答えると「その皇帝はいい人か」と聞かれたそうです。

 広大な国土ではありそうな話ですが、それ以上に治世者の移り変わりとは関係なく生きている人々に團氏は感心したそうです。中国人は目まぐるしく権力者が変わることに慣れており、状況変化に強く、したたかに生きる国民性を持っているといわれます。逆にいえば状況は常に変わるので短期決戦のビジネスを好むというわけです。

 ネガティブな報道がされた場合、それを悲観的に捉えがちな日本のような国は不確実性回避の性質が強く、逆に3年半もブレグジットが迷走しても、相変わらず楽観的なのが英国です。7つの海を支配した大英帝国を築けたのも異文化という不確かなものに極度のストレスを感じなかったからかもしれません。

 国民性はどうすることもできないものでもありますが、不確か、不透明な状況が拡がるグローバル化が進む世界では、それにストレスを感じない方が有利といえそうです。無論、十分なリスクマネジメントも必要ですが、大胆な挑戦を避け、何もしないことの方が危険を招く時代といえそうです。

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