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 今年のクリスマスも中国製のおもちゃが世界中の子供たちに与えられました。特に地球温暖化に悪影響をもたらし、廃棄にも問題のあるプラスチック製のおもちゃは、問題視されながらも圧倒的シェアを占めています。一方、最近は再生可能な素材で作られるおもちゃや木製のおもちゃにも注目が集まっています。

 この数年、フランスではマクロン政権の企業優遇、雇用に関わる社会保障負担税の軽減政策などもあり、一旦中国や旧東欧諸国に生産拠点を移した企業がフランスに戻る現象が起きています。とはいえ途上国生産に比べ、国際的な競争力を持つ価格確保には至っていません。

 そんな中、ポルトガルの靴産業が活況をていしています。World Footwear Yearbook 2019によれば、2018年の世界の靴輸出量に占める国の割合では、中国のシェアが2018年、64.7%と圧倒的で、次がベトナムの8.6%、インドネシアの2.8%、ドイツの2.1%と続いています。無論、生産量では人口の多いインドも上位につけています。

 そこに静かなだら堅調な伸びを示しているのがポルトガルです。もともと靴産業の盛んなポルトガルでは、ポルトガル第2の都市で商業の中心地、ポルトワインで有名なポルトから車で1時間ほどのマラインス、フェルゲイラスなどに靴生産地が散在していました。

 1980年代から90年代にかけて世界のトレンドだったウォーキングシューズやカジュアルシューズが生産され、代表的メーカーは、OEMを含め、日産5000足を超える生産を行っていたといわれます。ところが、2000年に入り状況は一転し、中国に靴産業は奪われてしまいました。

 ポルトガルはピーク時に約6万人が靴産業で雇用されていたのが、3万強まで落ち込み、機械化で対抗しようとしましたが、中国でコスト面で勝つことはできず、靴職人は職を失っていきました。それが2011年頃から、質の高い靴に特化する戦略に転換し、さらには新しいモデルを市場投入するまでの期間を中国より数カ月短縮することで、高級ブランドを中心に復活しました。

 ユーレカシューズ、ペルラト、アルマンド・シルヴァ、マタ、レモンジェリーなどが欧米市場で靴専門店を中心にシェアを拡大し、さらには高級ブランド市場でも高い信頼性から受注を伸ばしています。中国にOEM生産を奪われたポルトガルは、自社ブランドの世界的認知度を高めることに注力し復活を果たした形です。

 靴産業を世界的レベルでみると、靴生産量は2018年、242億足で前年度比、2.7%増え、2010年以降、20.5%も成長している産業です。一方、この8年間で世界の靴の6割強を生産する中国の生産量は9%減っている状況です。

 ポルトガルの靴産業は、1970年代に日本が開発したクオーツ技術でスイスの時計産業が一挙に衰退し、代わって高級手作り時計を自社ブランドで作る戦略で復活したのに似ています。興味深いのは職人文化の継続性です。ポルトガルでは今、靴を何代にも渡って作ってきた家族経営の靴メーカーが復活していることです。

 一足一足丁寧に手作りする小さな工房に、世界中のセレブから注文が殺到しているという状況は嬉しい悲鳴です。大量生産、大量消費ではない質と高級感が勝負の分野では、やはりヨーロッパの伝統産業は、まだまだ健在といえそうです。

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