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  シンガポールのカジノゾーンを持つリゾート・ワールド・セントーサ

 東京地検特捜部は今月25日、自民党衆院議員の秋元司容疑者(48)を収賄容疑で逮捕しました。容疑はカジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業への参入に意欲を見せる中国企業の役員らから賄賂を受け取った疑いです。クリスマスの日には似つかない忌まわしい逮捕劇でした。

 秋元氏は2017年8月から18年10月までIRを担当する内閣府と国土交通省の副大臣を務めていたIRプロジェクトの政府側の中核の人物です。同時に中国ギャンブル企業の顧問を務めていた人物など3人も逮捕されました。顧問といえば聞こえがいいかもしれませんが、日本のIR新事業に参入するために雇われたブローカーということです。

 IR事業の目玉であるカジノの日本導入で最初の逮捕者が、なんと政府側担当者の政治家だったということで、同事業そのものに暗雲が垂れ込めています。今まで競輪、競馬、競艇など公営賭博と警察に管理されるパチンコしか存在しなかった日本としては、巨額の金がうごめくカジノは未知の世界です。

 私は縁あって、ほとんどの人間が経験したことのない日本にカジノを誘致するプロジェクトに20年前に関わった経験を持ち、その経済効果の凄さと共に、カジノマネーに群がる恐るべき人々の実態に触れることができました。

 カジノ誘致が政治的には本格始動していなかったことで可能性は限りなく低かった時代が幸いし、巨額の資金を持つ欧米のカジノ事業者らは大手調査会社を使って市場調査している段階でした。そのため当時は公人を巻き込んだ贈収賄など起き得ない状況でした。

 欧米のカジノの誘致された町をつぶさに見て回った私は、カジノの経済波及効果の凄さを目の当たりにしました。まず、世界中でカジノが誘致された町は、一挙に町の様相が変わります。道路などのインフラが一挙に整備され、町はピカピカになり、花々で飾られた美しい町に変貌します。

 高級ホテルが立ち並び、他の産業誘致よりも少ないスペースで、町の税収は一挙に上昇するのがカジノです。ところが影の部分も無視できません。1980年代、米ネバダ州ラスベガスはマフィアが暗躍し犯罪の町というイメージが定着し、衰退しました。

 そこで女性市長の発案で、町に家族を呼び込むためのアミューズメントパーク化でイメージを変え、町が蘇り今のラスベガスがあるわけです。

 この成功例がシンガポールなど世界中に拡がり、日本もIRにカジノを埋め込むことで犯罪性、暴力性を打ち消すことができると判断したわけです。しかし、目的はあくまで圧倒的収益をもたらすカジノ事業誘致です。今日本で横浜市のようにカジノ誘致に手を挙げる自治体はそれが目的です。

 この賭博事業による圧倒的経済効果という点に注目するのは、テーマパークなどを手がけるアミューズメント事業者だけでなく、飲食業界、小売店など、さまざまな業界が関心を持っているわけですが、問題なのは日本の文化風土に合うかどうかということです。

 まず、ギャンブルそのものは、日本では未成年者が関わることはできません。子供がパチンコ屋に出入りできないし、馬券を買う年齢は20歳以上です。ところがオンラインカジノが普及したことで年齢制限は曖昧化しています。日本ではパチンコ施設は小学校など子供が通う教育施設と距離を取る必要があります。

 IRはその点で、今までの公営ギャンブルやパチンコに比べ、はるかに射幸心を煽るカジノを含んでいるにも関わらず、子供が遊ぶアミューズメントと混在させようとしています。カジノ賛成派はシンガポールなどの例を出し、誘致後の犯罪件数が増えていないことや治安が悪化していないことを上げていますが、これは実は長い目で見る必要があるでしょう。

 日本のようにカジノを禁止してきた国は世界的に見れば少数派ですが、背景には昭和25年に出された最高裁判決があり「国民の射幸心をあおるのは勤労によって財産を得ようとするという健全な経済的風俗を害する」ということで過剰な射幸心が人間を堕落させ、ひいては社会全体を駄目にするというものです。

 事実、世界中でカジノは、勤勉さよりも一攫千金を狙う人間の欲望を当て込んでおり、売春同様、多くの反社会的勢力が関わってきたビジネスです。人間の欲望を最大化する作用のあるカジノは、禁欲的仏教が定着した日本の文化風土とは相いれないものがあります。

 アメリカのように欲望を最大化する人生観とともに、弱者を支援する寄付の文化が定着していれば、社会貢献という健全なものに転嫁できますが、日本にそれは定着はしていません。私が日本でカジノを口にして集まってきたのは、まずはパチンコ関連業者です。さらに世界の怪しいブローカーや反社会勢力でした。

 つまり、IRというオブラートに包まれたカジノ誘致は、どんなに法規制を掛けても、そんなものをくぐり抜けることに熟練した人間たちが暗躍するということです。今回の秋元議員逮捕は、IR担当の政府の中枢にいた人物を直撃するものでした。となるとナイーブな地方自治体の議員や役人など一溜まりもありません。

 私はカジノを日本に定着させるには100年は掛かると見ています。ただ、カジノはそれほどものかということです。結局、勤勉に働いても経済の先行きが怪しくなった日本は、カジノに手を出して日本が保ってきた高い道徳意識を失い、社会全体を劣化させるリスクがあるということです。

 もともとカジノは貧富の激しい国々の既得権を持つ富裕層の遊びでした。それが一般大衆に放たれたのがラスベガスです。それが癌細胞のように増殖し犯罪の町と化したた過去があります。カジノマネーに群がる恐るべき人たちをつぶさに見てきた私としては、もっと他のこと、つまりイノベーションをもたらす人材育成などに投資すべきだと考えています。

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