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 クリスマス前の今月19日、米国の福音派の雑誌、クリスチャニティー・トゥデイ(CT)のマーク・ガリ編集長は、トランプ大統領の罷免(ひめん)を求める論評を掲載し、アンチ・トランプのCNNや米3大ネットワークの1つ、CBSなどに出演してトランプ大統領を批判しました。

 福音派といえば、トランプ氏を支える岩盤支持基盤といわれ、中西部のバイブル・ベルト地帯では「神がトランプを送った」と信じる篤実な信徒も少なくないくらいです。再選をめざすトランプ氏にとっては福音派は無視できない存在であることに間違いありません。

 22日には、同誌のティモシー・ダルリンプル社長がトランプ大統領を批判する論評を再び掲載し、一方でトランプ氏が福音派の理念に沿った多くの良いことを行ったと前置きしながらも、福音主義者がトランプ氏を受け入れることは、同氏の「過激なまでの不道徳、強欲、汚職、あつれきを生む言動、人種攻撃、移民や難民に対する残酷さや敵意」に縛り付けられることを意味すると主張しました。

 福音主義派のキリスト教徒向けに発行されているCTは、発行部数13万部。毎月430万人がウェブサイトを閲覧しているといわれています。無論、CTが福音派を代弁する雑誌というわけではなく、CTのトランプ罷免の主張に、トランプ氏はすぐさまツイッターで同誌を「極左の雑誌」と一蹴。これに対してガリ氏はCNNのインタビューで「私たちは福音派の中で中道の雑誌だと思っている」と述べています。

 アメリカの2000年以降の選挙分析では、宗派によって支持する政党がほぼ固定化しており、プロテスタント、特に白人の福音派は一貫して共和党支持でトランプ政権でも岩盤支持層の中核を占めています。一方、福音派を含むプロテスタンの黒人教会は民主党支持が多いといわれています。

 さらにアメリカ政治を背後で動かしているといわれるユダヤ教は、トランプ氏に限っていえば複雑です。娘がバリバリのユダヤ教徒のクシュナー氏と結婚し、ユダヤ教に改宗しています。トランプ氏はエルサレムをイスラエルの首都と主張するイスラエル政府を支持する一方、白人支持層はナショナリストが多く、反ユダヤの傾向が強く、在米ユダヤ人は反発しています。

 政治的に熱心な白人福音派は、中絶や同性婚、人種問題などに関する政治的な決定が、信仰生活にも大きな影響を与えるため、彼らは信仰的な信念を政治に反映させることをミッションと考えています。しかし、福音派も一枚岩ではなく、黒人教会は民主党支持です。

 ベトナム戦争で反戦気運が高まり、ヒッピーに象徴されるドラッグ、中絶、同性愛などリベラリズムが蔓延した1960年代、性道徳、中絶禁止などに厳しい規範を持つキリスト教は危機に瀕しました。さらに民主党色の強い最高裁が、公立学校での祈祷禁止や妊娠中絶合法化といったリベラルな判決を相次いで下したため、キリスト教会は政治への関与を強めざるを得なくなりました。

 特にその中心にいたのが福音派で、彼らは選挙で共和党につくか、あるいは民主党につくかではなく、「われわれは自らの信仰的信念を守るため、自らの主体的判断で支持者を決めている」と断言し、非常に強く政治にコミットする姿勢を見せています。そのためCT紙面上では政治議論はいつも白熱しています。

 キリスト教根本主義ともいわれる福音派は、聖書の原則に忠実で社会の変化に合わせて妥協するような宗派ではありません。今回のトランプ批判も厳格な彼らの信じる価値観からいえば、当然ともいえるもので、CNN及び民主党は喜んでいますが、彼らのリベラリズムと福音派はまったく相いれないものを持っています。

 大統領選挙では福音派の票は大きな影響力があるため、もしトランプ氏がいつものパターンで攻撃されれば、何倍も攻撃するようなアグレッシブな対応を繰り返しているとダメージになる可能性は高いといえます。ガリ編集長はトランプ政権発足以来、対決姿勢だけの民主党を批判する一方、ウクライナ疑惑は政権の道徳性を貶めたと強く批判しています。

 果たしてトランプ氏は自らの正当性のために福音派にも牙を剥くのか、これは民主党との対決以上に重要な意味を持つかもしれません。

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